声・まっくら森

天寧煌子の文章置き場(主に詩)

終わりの始まり ―ドナ・ウィリアムズに贈る―

あなたを知ったときわたしと思ったあなたはわたし それからあなたの示したわたしを探しに旅立っていった遠くへ 遠くへ…… わたしがわたしになる大地を見つけたときわたしを知らないあなたに橋をかける明日がくるかもしれないと道を急いだ けわしく終わりのな…

記憶の塔

怒濤の保存が行く手をさえぎり執念の塔となってそびえ立った (日記四九冊) (素描三四冊) (生活二一冊) (会話一七冊) (研究八冊) 記憶×××冊オドロオドロシイグチャグチャのシドロモドロシイメチャクチャがわたしを救い出してと絡みついて覚え違いが…

修羅の祈り

わたくしは争いに明け暮れました十字架の重みにひしがれて遂にひらたい原生動物となり地べたを這いずっております見下ろすことのない一つの目は固定された視界で 局限された風景を眺めるしかございません灯台よ あなたはその明晰な眼光で空からわたくしのう…

手紙

こんなひとりごとをかいてるひまがあったらきみに つたえることばをさがさなければならないのにみつからないからばこにてをつっこんだままみつからないみつからない とてがみのうらにかいている (2018.1.29) --------------------------------------------…

野暮楽士

出馬遅れて詩学の徒学び舎なき身独善のイロハも知らぬ野暮楽士我流きわまる作詩法奇計無策の赤っ恥根源なるは苦悩なり読者方には恐れ入る癒しも喰わぬ排泄歌 (2018.9.19) ------------------------------------------------------------------------------…

ほんとうのこと

美しい夢や、幻想や、願望や、一瞬のイメージを書くことにあまり興味はない(自分の作品の中にはそういうものがなくはないが)。私にとって、それは絵筆の役割だ。 文章には、「本当のこと」を求める。真実を見たいし、書きたい。 私は脚色が苦手で、「本当…

別れ

一人の客が主人の店を訪れた 往来に面したショーウインドウには 色とりどりの商品が着飾って 見目うるわしい愛想を振りまく 客人は百花の陳列に目を奪われ はずんだ歓声を上げて ウインドウの端から端を行ったり来たり ここにあるのは主人の生き写しと思い …

うつわ

これだけ これがすべて これしかない これでなければ これいがいは ありえない うつわ をほうって かわりの うつわ をさがしながら これしかない うつわ もやっぱり かかえて かわりの うつわ をもとめる (2018.4.20) -----------------------------------…

出現

魅せられるままの導きは 転がる種に絨毯を敷いて 大地に錨を降ろした 地面に空に 繁茂する 無数の根 のびる枝 ふえる葉 蔦はからまり 苔まで生えた あの木になることも その木になることも できたのに 木はこの地に姿を現し 種の転がる先を果てまで描いて 深…

いびつの心臓

かれがそむけた心臓を ときには頭上に掲げたく ときには握り潰したくもあり その拡声の臭気を前に きみもまた かぎつけられた愛憎の 煙を嗅いだ あわれなる きみがいびつの塊よ 両極揺れる街宣よ 自ら頼もしからぬ玉座よ この血をもはやかざすまい きみは心…

ひとり相撲

――イラッシャイマセ ――話がしたいのですが ――何ヲ話シマショウカ? 君ノ好キナヨウニ話シテクダサイ ――何を話してもいいですか? ――何ヲ話シテモイイデス ――じつは○○は××で、△△しました ――○○ハ××デ、△△シタノデスカ ――それはどういう意味ですか? ――○○ハ××デ…

きみがいなくなったら

愛する人が死んだときは死なねばならぬと むかし愛した詩人がいった もし きみがぼくを置いて どうしてもぼくのなかから消えるというなら ぼくはぼくをくびるかわりに きみをこの手に生み出しましょう どこにもいないきみのうたを ぼくのうちに咲かせましょ…

遠いうた

世界の片隅から呼びかける虚しい願いはこだまする届いても届かなくても声をかぎりに歌っていた 消え入る祈りに絶望と透明な涙が混じる決して返ってくることのない声決して報われることのない声 人に祈ると黙られるその法則をいつ知った?神様ではないのだか…

カンテラ

岩陰が闇に沈む暗黒の洞窟の奥奥、奥、そのまた奥深く肉厚に膨張した透明の膜を着ぶくれて沈黙に佇立している奇怪な異形の塊――それがわたし 君よ カンテラに灯をともしその手に掲げ持てそうして黒く染まった足下をあきらかに照明しここまで歩みきておくれ カ…

踊る面接シミュレーション

「いい? あなたは女優。ここは舞台。 女優になって堂々と舞台を演じる!」「なるほど……演じればいいんですね?」「じゃあ今度は僕がやってみるから。君が面接官をやって。 じゃあいくよ? 失礼しまーす。扉しめる。両手そえる」「え? そんなふうにこっち向…

ニコン全消去の悲劇

撮って撮って撮りまくったニコンデジタルカメラの愛蔵データがすべて――消え去った。二千枚近くはあったろうか。 消去したい画像を表示させて機械右下の削除ボタンを押すと、ディスプレイ上に、上段に「表示画像」、中段に「 削除画像選択」、下段に「全画像…

『拒食症の家』を読んで

『拒食症の家』吉川宣行著、1998年発行、EPIC 日本自分史センターにて、詩「うめき」と同じ内容を職員に訴えて、閉架書庫から出してもらった自分史。一読してこれは凄い、入手したいと願う大満足の本だった。 家族との葛藤を通して、少女が拒食症になってい…

表出vol.1 声 まっくら森レポート

2017年7月15日(土)~7月23日(日)、池田町の土川商店「場所かさじゅう」にて表出vol.1 声 まっくら森が開催されました。 以下は、出品者の一人・天寧煌子目線のドキュメントです。ほぼ日記的内容になっています。 ◆7月15日(土)今回、天寧がメインに…

客人

ここは小さい穴ぐら わたしの家誰も立ち寄らないとついしょぼくれて つい寂しくついふてくされもしてそれなのにきょう あなたはていねいな物腰で穴ぐらに進みきて暖炉の前に手をかざしたりなどして椅子に腰かけてくれるその止まった背中に ほんのりこみあげ…

穴ぐらと重力

薄暗い穴ぐらの奥まった 最も深い底の底そこにわたしは置いてきた窮迫したこわもての告訴状かれらとちぎれたたったひとつの千言をどうしてもかれらに届けなければならないいちばんとうとい言伝を だがかれらの歩幅は大きくその歩調は早すぎてものの見事に穴…

晴れ間の急迫

行かなくてはならないわたしの足どりは重い過去の亡霊が立ち上がってくるその亀裂が生じる瞬間がまるい調和のなかからぎらと顔を突き出すのが見えてしまうから晴れた空が突然かげり雨降る間もなく稲妻が落ちてくるその急迫が光るのを鮮烈に感触するから (20…

胸騒ぎ

あまりにもまるい達成が続くのでもしやあなたを押し切ったままひとり得意の終止符を発行してすましているのではないかと疑念がさわいでおります あなたが少しばかり口をひらこうともさらにもの言いたげな峻烈の物語が角張らない笑顔の後ろに匿われているので…

屠る歌

びりびりに引き裂いて散らばった嘆きをゴミ箱に屠る手をためらい胸に抱えてもう一度抱きしめる紙屑の端にはちぎれた無数の文字が名残惜しげに繊維のうえにうごめいた ――いやだめだ お前は片輪だ間引きされる定めの子日陰を歩む斜陽の嘆き見たろう かれの素通…

花壇の物語

長く重苦しい冬の年月は透明な患いを吹雪にのせぽとりと吐息をこぼしました主は誰かに対して何かの意図をもって嘆息したのではないのですひとりでの出生でございました歓待のまろやかな呼び声拍手にちぎれる艶やかなリボンに騙されてはなりませぬ調和の中に…

だるまの無言

手足なく 口のきけないだるまは 地べたをころがりながら からだで詩を吐く だるまの無言は とうといんだ (2017.7.17) ---------------------------------------------------------------------- 【ひとこと】 「地べたを這いずりながら」のほうがいいかな…

詩日記:普遍の掌に爆発する特殊

2000年頃から、苦しくなると詩のような言葉を吐かずにはいられなかった。自分の詩がヘタクソであることは、5、6年前からよく知っていた。2015年に作品をブログにまとめたが、それはいかにも稚拙でヒステリックな叫びだった。2016年冬、「詩」といえるよう…

悪の糸

アンタが悪い んじゃない こんがらがった糸が 悪いんだ (2017.6.29)

蟻の欠落

蟻は山の巨大を知った 蟻は体の小粒を知った 歌を歌えば歌うほど 歌は足りない 言葉を手繰れば手繰るほど 言葉は足りない 捻りなく ただありのままをかたどるだけが 蟻の仕事だった ときには己の住処さえ うっかり零してしまうこともあった 勢いばかりの野暮…

こよい本ができる

こよい手製の 本ができる めんどくさい 階段ひとまたぎの てっぺんを ぐわっと たぐり寄せたい (2017.6.27)

うめき

へたでも しろうとでも これをかかないでは いきていられなかった すごみのあるほんが みたいのです そういうほんは おくにおいやられて うまい りっぱなほんが おもてにのこっているのでは ないのですか せんそうをかたりつぐのは もちろんとてもだいじです…