声・まっくら森

天寧煌子の文章置き場

人間間葛藤

別れ

一人の客が主人の店を訪れた 路面に面したショーウインドウには 色とりどりの商品が着飾って 見目うるわしい愛想を振りまく 客人は陳列棚に目を奪われ はずんだ歓声を上げて ウインドウの端から端を行ったり来たり ここにあるのは主人の生き写しと思い その…

いびつの心臓

かれがそむけた心臓を ときには頭上に掲げたく ときには握り潰したくもあり その拡声の臭気を前に きみもまた かぎつけられた愛憎の 煙を嗅いだ あわれなる きみがいびつの塊よ 両極揺れる街宣よ 自ら頼もしからぬ玉座よ この血をもはやかざすまい きみは心…

ひとり相撲

――イラッシャイマセ ――話がしたいのですが ――何ヲ話シマショウカ? 君ノ好キナヨウニ話シテクダサイ ――何を話してもいいですか? ――何ヲ話シテモイイデス ――じつは○○は××で、△△しました ――○○ハ××デ、△△シタノデスカ ――それはどういう意味ですか? ――○○ハ××デ…

カンテラ

岩陰が闇に沈む暗黒の洞窟の奥奥、奥、そのまた奥深く肉厚に膨張した透明の膜を着ぶくれて沈黙に佇立している奇怪な異形の塊――それがわたし 君よ カンテラに灯をともしその手に掲げ持てそうして黒く染まった足下をあきらかに照明しここまで歩みきておくれ カ…

穴ぐらと重力

薄暗い穴ぐらの奥まった 最も深い底の底そこにわたしは置いてきた窮迫したこわもての告訴状かれらとちぎれたたったひとつの千言をどうしてもかれらに届けなければならないいちばんとうとい言伝を だがかれらの歩幅は大きくその歩調は早すぎてものの見事に穴…

晴れ間の急迫

行かなくてはならないわたしの足どりは重い過去の亡霊が立ち上がってくるその亀裂が生じる瞬間がまるい調和のなかからぎらと顔を突き出すのが見えてしまうから晴れた空が突然かげり雨降る間もなく稲妻が落ちてくるその急迫が光るのを鮮烈に感触するから (20…

胸騒ぎ

あまりにもまるい達成が続くのでもしやあなたを押し切ったままひとり得意の終止符を発行してすましているのではないかと疑念がさわいでおります あなたが少しばかり口をひらこうともさらにもの言いたげな峻烈の物語が角張らない笑顔の後ろに匿われているので…

悪の糸

アンタが悪い んじゃない こんがらがった糸が 悪いんだ (2017.6.29)

国境

おそらく君が君であろうとして 踏みしだいた足下は 僕が僕であろうとして 築いた牙城の本丸だった もう幾度も 国境を定めてきたが 制止の声を聞いてか聞かずか 君は遂に 踏み越える禁忌を なおざりにし通した 旗を折られた本丸の大将は 怒り狂って出陣した …

ずぶといひと

ずぶといひとよ お前はとうとう勝利をおさめるのか お前たちのなかには微笑ましい者もいて ずいぶん憧れもした、手を伸ばそうともした けれどもお前とはけんけんがくがく どうにかこうにか接地点を探っていたものだが その片手はとうとう勝ち誇ったように 一…

イジワル

わたしはイジワルだった どんなに尊敬されようとも 実はわたしはイジワルだった 確かにあなたはドンヨリ鈍い、昏い、疎い それゆえにこれっぽっちも心打たず それゆえにわずらわしくて イジワルしちゃった どんなに謝っても謝りきれない 額を地面にこすりつ…

遭難者のわがまま

まな板の上の魚をさばく手つきで 君は器用に問題を分析して 誤りのない正しい道を指し示した そのとおりだとわかっているから 大人しく引き下がって対策を立てよう でも忘れないでくださいね 流れた涙のあることを 地図に引かれた線路のうえに 走る列車の列…