地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(5)詩「ゆるして」

ゆるして 私の命は許されていない。社会からも。自分からも。 「もう、許してほしい」と、神に祈った――。 【ゆるして】 ゝ ひとひらの風が 窓枠に触れる ゝ 部屋を撫で さらう波が ゝ 沈殿する波と 絡まり合い ゝ 揺蕩いひらく ありのままに ゝ 巻き上がり …

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(4)詩「打ち下ろす槌に」

燃え尽きて 命を賭けていた。森口さんが命を賭けて書いたように。失われた人間の尊厳を取り戻し、社会で生きる権利を確立するために。 人間の尊厳、命の尊厳とは何か? 社会的に抹殺された人の存在が、私には支えだった。裁判をする人の気持ちがわかった。ハ…

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(3)

〈自分の部屋〉を〈通路〉の一部にしたくない 『マイノリティ・センス』がおおかたできあがった時、下読みした人の評価はさんざんだった。重い。暗い。わかりにくいと。読んでもらえない人が半数いた。そもそも「読めない」というのだ。 本の内容自体に関し…

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(2)

オーダー・メイド 私が直面している発達障害の問題もそうである。 私の問題と需要を解決できる情報が、世の中にはない。世の中の問題と需要を解決できる情報が、私の中にはない。私の問題と需要は、世の中の問題と需要とは重なり合わない。“ちょっと”はある…

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(1)

〈特殊〉vs〈一般〉 文芸社の講評を読んで、まず目に飛び込んできたのは、「全国流通を目指していただける内容」という文字だった。 「無理」だと思っていた。「それを目指しては私が潰れてしまう」と思っていた。 その理由を整理してみる。 〈特殊〉vs〈一…

執筆中の自著の講評に”言葉を失う”ほど震撼した 詩:ただ一人の観客へ

東京オリンピックが閉幕し、新型コロナウイルス第5波が落ち着き始めた2021年初秋。一通のレターパックがポストに入っていた。文芸社から届いた、聴覚過敏手記『マイノリティ・センス』の講評だった。 この春、文芸社主催の自分史大賞「人生十人十色大賞」に…

詩:花吹雪

遠い故郷を浮かべ 群青を帯び輝く細面が 水中に揺らぐように 潤む月は 夜闇に光沢を湛え ぴんと張ったしずかな冷気が 月の無言を呑んでいる しやめかな夜空に 散る 散る 熟れてゆく樹幹から離れ 透き通る白い花弁が 裸体のままひらき 無数の歌になって Good …

詩:アポロンの眼

ディオニソスに魅入られ 葡萄の蔓の絡まる酒杯を享(う)けた 昏い眼光を滾(たぎ)らせ 無形の岩漿*を地に撒いた ピンセットで標本台に載せる 一分の狂いなき手つきでつがえた アポロンの銀の矢が 杯を貫き 絶対零度の衝撃が またたく間に岩漿をかためた 射手を…

エッセイ:書く葛藤2 アポロンとディオニソス

書けない。しかし、せめて、書けないことを、書いてみたい。 私には、自閉症の特性に由来する、特殊な感覚がある。これを書きたいと思いついたのは、25年前になる。 はじめに「書け」と言ったのは、哲学を好む、ある文学の先生だった。当時私は、キルケゴー…

ひきこもり支援者とのやりとり 詩:ひきこもり四字熟語

以下は、最近できた自家製本を、あるひきこもり支援者に見せた時のやりとりです。 アゴウさんと6年ぶりに再会 ひきこもりサポーター養成講座に出るため、××センターに向かう途中、堤防沿いの道路で工事をしていて迂回させられた。早めに到着してアゴウさん…

詩は、文学は、すべてウンコだというのか…! 詩:私の詩なぞ

詩を書いているFさんから電話がかかってきた。 「ウンコの詩、××誌に載せていい?」 「えぇ!?」 ウンコの詩とは、私が自分の詩をクソみたいに厭う感情から生まれた「私の詩なぞ」という作品。 あまりにもひどいので、とても人様にお見せできないお蔵入りの詩…

詩:白紙

なぜこんな自分になったのか。 なぜ行き詰ってしまったのか。 「白紙」の中で、自分と語り合いました。 【白紙】 まっさらな紙のうえに まったく我が意思にまかせられている 流れるリズムのないままに しいんとひとりで 居場所ある者はさいわいと 君は言った…

自分の世界を描いた詩:大いなるものへ

このブログはほとんど見ている人がいないので、気が乗らず放置していたのですが、半年ぶりに更新します。 私の世界 このエピソードはいずれ私のもう一つのブログで書きたいですが、中学1、2年生の時、突然強烈な自我が芽生え、「自分の世界」をもったこと…

詩:鍵を知る者 ―ドナ・ウィリアムズに贈る―

鍵を知る者よ 教えてほしい わたしがなぜここに 繋ぎ止められているのか 母なる器 痩せ果てた大地の封印に 縛めを解く 型はどこに 秘匿されているのか ――組み敷かれた魔方陣 ――解けない鍵穴 ふたつでひとつのからくり 片割れを抱えている あの雲に 差し伸べ…

普遍プレッシャーで詩が書けない

詩が書けないいぃぃぃぃーーーーッ 書けないのは、前の記事「ほんとうのこと」で書いた身元が割れるという理由と、 普遍プレッシャーです。 谷川俊太郎の ↓ のことばは、私の中で、仏教者・小池龍之介の口調を借りると 「詩は人類の宇宙的普遍を書くべきであ…

手記:『踏まないで!』第11章 高木さんとの対話

※この原稿は、現在執筆中の手記『踏まないで!』の一部分です。 新ブログ ↓ にも投稿しました。 roots-amanekouko.hatenablog.jp 1 梅雨の季節真っ最中で、雨が降り続き、蒸し暑い空気が肌にまとわりついていた。二〇××年六月末日。毎月、石津宅で行われて…

手記:『踏まないで!』序章から 「落日」

※この原稿は、現在執筆中の手記『踏まないで!』の一部分です。 新ブログ ↓ にも投稿しました。 roots-amanekouko.hatenablog.jp 二〇××年一〇月のある日、Jワークスの機械室で、私は何度目かのパニック発作にのみ込まれていた。 そこは、無機質なコンクリ…

詩:かなしい蟻

かなしい蟻よ どこまで登る 山の頂 いよいよそびえ 足下の土 ぽろぽろ落ちる かなしい蟻よ それでも行くか はためくしるし いよいよ遠く 地は天のもと 引き離される かなしい蟻よ しりもちついて よいこらしょっと 立ち上がるなり 再び細い 足を差し出す か…

詩:終わりの始まり ―ドナ・ウィリアムズに贈る―

あなたを知ったときわたしと思ったあなたはわたし それからあなたの示したわたしを探しに旅立っていった遠くへ 遠くへ…… わたしがわたしになる大地を見つけたときわたしを知らないあなたに橋をかける明日がくるかもしれないと道を急いだ けわしく終わりのな…

詩:記憶の塔

怒濤の保存が行く手をさえぎり 執念の塔となってそびえ立った (日記四九冊) (素描三四冊) (生活二一冊) (会話一七冊) (研究八冊) 記憶×××冊 オドロオドロシイグチャグチャの シドロモドロシイメチャクチャが わたしを救い出してと絡みついて 覚え…

詩:修羅の祈り

わたくしは争いに明け暮れました 十字架の重みにひしがれて 遂にひらたい原生動物となり 地べたを這いずっております 見下ろすことのない一つの目は 固定された視界で 局限された風景を 眺めるしかございません 灯台よ あなたはその明晰な眼光で 空からわた…

詩:手紙

こんな ひとりごとをかいてるひまがあったら きみに つたえることばを さがさなければならないのに みつからない からばこにてをつっこんだまま みつからないみつからない と てがみのうらに かいている (2018.1.29) * 【ひとこと】 どうしてもこう、こじ…

詩:野暮楽士

出馬遅れて詩学の徒 学び舎なき身独善の 伊呂波も知らぬ野暮楽士 我流きわまる作詩法 奇計無策の赤っ恥 根源なるは苦悩なり 読者方には恐れ入る 癒しも喰わぬ排泄歌 (2018.9.19) * 【ひとこと】 七、五と韻を踏んでいます。

エッセイ:ほんとうのこと

美しい夢や、幻想や、願望や、一瞬のイメージを書くことにあまり興味はない(自分の作品の中にはそういうものがなくはないが)。私にとって、それは絵筆の役割だ。 文章には、「本当のこと」を求める。真実を見たいし、書きたい。 私は脚色が苦手で、「本当…

詩:別れ

一人の客が主人の店を訪れた 往来に面したショーウインドウには 色とりどりの商品が着飾って 見目麗しい愛想を振りまく 客人は百花の陳列に目を奪われ 弾んだ歓声を上げて ウインドウの端から端を行ったり来たり ここにあるのは主人の生き写しと 無邪気に微…

詩:うつわ

これだけ これがすべて これしかない これでなければ これいがいは ありえない うつわ をほうって かわりの うつわ をさがしながら これしかない うつわ もやっぱり かかえて かわりの うつわ をもとめる (2018.4.20) -----------------------------------…

詩:出現

魅せられるままの導きは 転がる種に絨毯を敷いて 大地に錨を降ろした 地面に空に 繁茂する 無数の根 のびる枝 ふえる葉 蔦はからまり 苔まで生えた あの木になることも その木になることも できたのに 木はこの地に姿を現し 種の転がる先を果てまで描いて 深…

詩:いびつの心臓

かれがそむけた心臓を ときには頭上に掲げたく ときには握り潰したくもあり その拡声の臭気を前に きみもまた かぎつけられた愛憎の 煙を嗅いだ あわれなる きみがいびつの塊よ 両極揺れる街宣よ 自ら頼もしからぬ玉座よ この血をもはやかざすまい きみは心…

詩:ひとり相撲

――イラッシャイマセ ――話がしたいのですが ――何ヲ話シマショウカ? 君ノ好キナヨウニ話シテクダサイ ――何を話してもいいですか? ――何ヲ話シテモイイデス ――じつは○○は××で、△△しました ――○○ハ××デ、△△シタノデスカ ――それはどういう意味ですか? ――○○ハ××デ…

詩:きみがいなくなったら

愛する人が死んだときは死なねばならぬと むかし愛した詩人がいった もし きみがぼくを置いて どうしてもぼくのなかから消えるというなら ぼくはぼくをくびるかわりに きみをこの手に生み出しましょう どこにもいないきみのうたを ぼくのうちに咲かせましょ…