声・まっくら森

天寧煌子の詩置き場

蟻の欠落

蟻は山の巨大を知った

蟻は体の小粒を知った

 

  歌を歌えば歌うほど

  歌は足りない

  言葉を手繰れば手繰るほど

  言葉は足りない

 

捻りなく

ただありのままをかたどるだけが

蟻の仕事だった

ときには己の住処さえ

うっかり零してしまうこともあった

勢いばかりの野暮天は

堂々たる建築を前に

紅潮していた

 

我流でなければすくい取れない直截が

そこにあった

まわりくどい技巧よりも

真理を一散に彫刻する意思が

そこにあった

美の手際を見上げながら

然りとしか語れない足跡が

歩み来た隘路のまことを描く筆が

そこにあった

 

しかし蟻は

山のあまりに巨大を知った

体のあまりに小粒を知った

それでありながら

散乱した芥子の声は降り積もり

層は厚みを増していった

 

  歌を歌えば歌うほど

  歌は足りない

  言葉を手繰れば手繰るほど

  言葉は足りない

 

欠落の歌を

遅きに失して蟻は知った

 

(2017.6.30)

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<ひとこと>

山頭火の「分け入っても分け入っても青い山」の心境。

分け入っても分け入っても分け入っても分け入っても欠落の青い山は連なる。