声・まっくら森

天寧煌子の詩置き場

穴ぐらと重力

薄暗い穴ぐらの奥まった 最も深い底の底
そこにわたしは置いてきた
窮迫したこわもての告訴状
かれらとちぎれた
たったひとつの千言を
どうしてもかれらに届けなければならない
いちばんとうとい言伝を

 

だがかれらの歩幅は大きく
その歩調は早すぎて
ものの見事に穴をよける
表通りのパレードは
上澄みをすくって通り去る
舞台の壇上が
楽屋の暗部をますます濃く沈めてゆく
忙しい現代人はそそくさと
おのれの生活にかえっていくばかりだ

 

その戯画が先端でありありと
楽屋裏のスクリーンに展開される
このうらぶれた瞼の裏の映像
ああ それこそがかれらとちぎれた世紀の秘密なのだ
ああ それこそが隠された仕掛けの真髄なのだ
かれらはあきらかにされていく秘密を
ふたたび生産している

 

たったこんなことだ
だが たったこんなことでも
古い戦傷の生々しい再現だ
追いすがる過去の怪奇映画だ
このからくりを再び解体しなければならない
ときが来たようだ

 

それでも一人二人
そろそろと穴ぐらに沈みかける人もある
きみに深く敬礼するばかりだ
きみの尻は飛ばされない重心をもっている
しかし多くのかれらはきみに似ていない

 

それにしても
こんな重大な置き手紙は厚く封をして
穴ぐらの最深部に置くしか方法がない
しかし かれらの尻は
穴ぐらに沈む重力をもたない


(2017.7.19)

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【ひとこと】
 社会に訴えたい一番大事な、奥まった底にあるエッセンスが届かないくやしさ。展示することによって、展示の意図が隠され、訴えたい問題が再生産される皮肉が出現する衝撃を描いた。