声・まっくら森

天寧煌子の詩置き場

客人

ここは小さい穴ぐら わたしの家
誰も立ち寄らないと
ついしょぼくれて つい寂しく
ついふてくされもして
それなのにきょう あなたは
ていねいな物腰で穴ぐらに進みきて
暖炉の前に手をかざしたりなどして
椅子に腰かけてくれる
その止まった背中に ほんのりこみあげる
口数少ないまなざしに ひっそり漂う
おくゆかしさ
でもそれは家主に会いにきた客で
客でない見知らぬひとの多くは やはり
穴ぐらを横目でチラとうかがって
何事もなかったかのように顔をそむける
家主をもとめて来たひとだけが
玄関口に足をすすめる
ただの通行人にはただの
暗い洞でしかない
そんなさびしい穴ぐらを 覗きこんで
ひととき正座までしてくれる
あなたの背中の たのもしさ
止まったしぐさの あたたかさ
もの静かな横顔の ありがたさ


(2017.7.20)

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【ひとこと】
 かつて私の相談に乗ってくださったHさんがひっそりと訪ねてきてくれた。
その人の横顔を基調イメージとして、展示スペースを見てくれた人たちを思って書いた。
 あるとき、この詩を読んでくれたAさんが「そういうしぐさで詩を読んでいた。なぜわかったのか」と言った。私はAさんが詩を読んでいる姿をたまたま見ていなかった。
 Aさんの言葉になぜかとても打たれた。あなたが詩を読んでいる姿を見たかった、写生したかったと思った。もっと丁寧に、詩を見てくださる人の姿を写生しておけばよかったと後悔した。それをしなければならなかったとAさんは教えてくれた。