声・まっくら森

天寧煌子の詩置き場

カンテラ

岩陰が闇に沈む
暗黒の洞窟の奥
奥、奥、そのまた奥深く
肉厚に膨張した
透明の膜を着ぶくれて
沈黙に佇立している
奇怪な異形の塊
――それがわたし

 

君よ カンテラに灯をともし
その手に掲げ持て
そうして黒く染まった足下を
あきらかに照明し
ここまで歩みきておくれ

 

  カンテラを掲げるな
  お前はたちまち
  狙撃されてしまうだろう

 

君は知らないのだ
この照明なしに
洞窟を 闇黒を
不可視の着ぶくれを
わたしと君を隔絶している障壁を
決して視覚できないことを……

 

  カンテラを掲げるな
  カンテラはなくとも
  お前はお前でいられる

 

君は知らないのだ
お前とわたしの基点を駆動している
車輪の型が異なるからくりが
透明の厚着を生みだした
はじまりの物語を……
カンテラの照明なしには
素肌をさらせない
言伝は永遠に行き交わない
秘められた仕掛けを

 

君よ カンテラを掲げよ
そうして洞窟を 闇黒を
あきらかに照明し
ここまで歩みきておくれ
君よ わたしが見えるまで
君よ わたしに至るまで

 

(2018.3.22)

-----------------------------------------------------------------------------------------

【ひとこと】
 この詩は、「障碍障碍言わないほうがいい」と言われたことに対する、私の答えである。
 君、カンテラなしで私が見えるか。否、決して見えない。
 君、カンテラなしで私に至れるか。否、決して至れない。
 君、カンテラなしで私と話せるか。肉声で話せるか。否、決して話せない。
 そこにいるのは、君たちの型に造型した私の影だ。
 この造型を、私だと思ってはならない。
 人間は、見られたままに、在るのではない。