地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

〈自己愛〉と〈他者愛〉のはざまで(6) 詩:〈敵〉と〈味方〉

E氏と対決した。 偉そうなことをまくしたててしまったかもしれないが、懸命に意思表示した。 E氏の立場として、そういうふうにしか生きられなかった、と判明した。 和解した。誇りを感じた。 こうして私は、クリニックを辞めた。 〈敵〉と〈味方〉 ありのま…

詩:生の杣道

〈争いによって 生 を望む者もいれば 死 を望む者がいてもおかしくない この杣道は 通った人にしか わからない〉 岡本太郎の遺伝子 命かけてうたう artの革命家よ 宇宙に迸る あなたの息吹が わたしを覚醒させた けれども誘爆する魂よ、 もし パンドラの箱を…

詩:異化の結実

異化には理由がある ひとりひとりに理由がある―― 何年前だったか、の 遠い昔 あれは違う、これは違うと、 会う人会う人に アナフィラキシーショック の電流を受けて 竦み上がっていた 違和感の看守が わたしを牢獄に 連れ戻し もう一歩も出られなくなった 会…

詩:沼

贔屓が グループに入っていたから みんなが好きになった けれども ひとりが異様にまばゆく みんなも 贔屓すらも 背景になり 搔き消された そのひとりだけが 目に 耳に 浮き出るように 飛び込んでくる どうやら墜ちてしまったらしい 意図するでもなく 手足は…

詩:時の陽光

(おまえが悪い んじゃない こんがらがった糸が 悪いんだ) 長い 長い争いは 鎧に覆われた 懐の内側に 深手を負わせた 血の滴る 鉄錆の心臓を みずからの手で 切り裂きながら (いつか 縫い合わせるのだ) (深手を負ったのは おまえだけではない) 色めく …

詩:囲う家

代々結び目をつくる 根の先端のある家で 私は私を組織する 傷の修復 武器の研磨 空腹の解消 ――でも 包み込む布団が 絞め上げたら―― 育んだ土が 生き埋めにしたら―― 緑の源泉が 毒を流し込んだら―― 組織する栄養が 牙を剝いたら―― ――風雪から守る 屋根が あぁ…

詩:考えることが好き

考えると詩が書けないよ、と 詩を書くひとがいった なるほど考えていると 詩が書けない わたしは欲張りだから 感じたい 考えたい どっちもやりたい どうしよう? 考える 割り切れない 答えは出ない 時間も気力も体力も 消耗する でも巨きな鉱山の 洞窟で 先…

詩:枯れ尾花

夜がひらき 落下する 瞑目 憩いの黄泉に横たえる 肢体の門に 引転する 幽かな知らせに 識る 探照灯が 浮き、沈み、 沈み、浮き、 浮いて、浮いて、 浮いて、いく 唯識の明滅が 闇夜の溶けた 黎明へ―― 閾の水面から 面を上げれば 地上の墓地 閂の落ちた 霊廟…

詩:空孔

――空孔ヨ、私ヲ呼ベ 魂鳴りの奥の 重心に居座る カルデラは巨きく 火口を開き 肉厚の ヒタヒタ震える 深淵、爆発の呼気の 発炎筒に 空隙の椅子は 背を待っていた ――空孔ヨ、私ヲ満タセ ある時 君が座ると 日溜まりは注がれ カルデラの口を埋めた 背凭れの形…

詩:祈り

神よ たとえあなたが見えなくなっても この祈りを許してください 神よ たとえあなたの声が聞こえなくとも この祈りを聞いてください 神よ たとえあなたがいなくなっても この祈りを残してください 神よ たとえあなたがまぼろしであっても この祈りを届けてく…

詩:回帰

硬く鋭く 己を掘り出す鑿の刃先は 絶つことによってしか 永遠に 我が骨に到達できないであろう (2016.11.28)

詩:記憶(Voice of the trauma)

かすかなひび割れの底から地獄が這い出してきた。 平静の裏に押し込めた記憶が悲鳴とともに躍り出て。 塔から見つめる暗闇は彼方まで続いていた。 声にならない唸りを上げて、ぞろぞろと列をなしていたのだ。 ここまできてはいけないよ、時々見張っているけ…

詩:放送禁止用語

〈ピー〉のなにがわかる? 〈ピー〉のなにを知っている? 〈ピー〉を聞いただけで耳を塞ぐ きみは 〈ピー〉だ 〈ピー〉を書いたひとは 何十年も 〈ピー〉のなかで 〈ピー〉にひっぱり回され 〈ピー〉にひっかき回され 〈ピー〉にひきずり下ろされ 〈ピー〉に…

詩:幻の風船

壮大な 幻の風船が弾けた 中身は見事に塵芥 残るがらんに赤面の体 そうだ、そうだ、それでいい 流れ着いた終末の明日に弾けていたのでは とっても耐えられるまい、さ…… それでも昏い感傷は 懲りずに夢をみるようにできているらしい とどまるところを知らない…

詩:ゆううつのみち

くるひもくるひも めらんこりいのかげが のべつまくなし うってゆく このみちのさきにのみ こたえにいたるもんはある わたしはそれを しっている ゆこう ゆこう ゆううつを ときどきは ささえるものが あるまいか ゆううつのうみは とてもしょうもうするから…

詩:隣人

足音たかく 雪崩れる嵐に乗って 賊の頭巾をかぶった隣人が 柵をまたぐ 花壇の若芽を 踏み荒らし 扉を蹴破りざま きみの鼓膜の奥にするどく 怒号する 〈俺の家のものになれ!〉 〈俺の家になれ!〉 〈俺になれ!〉 散乱する家具 きみは背後のない壁を後じさり…

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(5)詩「ゆるして」

ゆるして 私の命は許されていない。社会からも。自分からも。 「もう、許してほしい」と、神に祈った――。 【ゆるして】 ゝ ひとひらの風が 窓枠に触れる ゝ 部屋を撫で さらう波が ゝ 沈殿する波と 絡まり合い ゝ 揺蕩いひらく ありのままに ゝ 巻き上がり …

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(4)詩「打ち下ろす槌に」

燃え尽きて 命を賭けていた。森口さんが命を賭けて書いたように。失われた人間の尊厳を取り戻し、社会で生きる権利を確立するために。 人間の尊厳、命の尊厳とは何か? 社会的に抹殺された人の存在が、私には支えだった。裁判をする人の気持ちがわかった。ハ…

執筆中の自著の講評に”言葉を失う”ほど震撼した 詩:ただ一人の観客へ

東京オリンピックが閉幕し、新型コロナウイルス第5波が落ち着き始めた2021年初秋。一通のレターパックがポストに入っていた。文芸社から届いた、聴覚過敏手記『マイノリティ・センス』の講評だった。 この春、文芸社主催の自分史大賞「人生十人十色大賞」に…

詩:花吹雪

遠い故郷を浮かべ 群青を帯び輝く細面が 水中に揺らぐように 潤む月は 夜闇に光沢を湛え ぴんと張ったしずかな冷気が 月の無言を呑んでいる しやめかな夜空に 散る 散る 熟れてゆく樹幹から離れ 透き通る白い花弁が 裸体のままひらき 無数の歌になって Good …

詩:アポロンの眼

ディオニソスに魅入られ 葡萄の蔓の絡まる酒杯を享(う)けた 昏い眼光を滾(たぎ)らせ 無形の岩漿*を地に撒いた ピンセットで標本台に載せる 一分の狂いなき手つきでつがえた アポロンの銀の矢が 杯を貫き 絶対零度の衝撃が またたく間に岩漿をかためた 射手を…

ひきこもり支援者とのやりとり 詩:ひきこもり四字熟語

以下は、最近できた自家製本を、あるひきこもり支援者に見せた時のやりとりです。 アゴウさんと6年ぶりに再会 ひきこもりサポーター養成講座に出るため、××センターに向かう途中、堤防沿いの道路で工事をしていて迂回させられた。早めに到着してアゴウさん…

詩は、文学は、すべてウンコだというのか…! 詩:私の詩なぞ

詩を書いているFさんから電話がかかってきた。 「ウンコの詩、××誌に載せていい?」 「えぇ!?」 ウンコの詩とは、私が自分の詩をクソみたいに厭う感情から生まれた「私の詩なぞ」という作品。 あまりにもひどいので、とても人様にお見せできないお蔵入りの詩…

詩:白紙

なぜこんな自分になったのか。 なぜ行き詰ってしまったのか。 「白紙」の中で、自分と語り合いました。 【白紙】 まっさらな紙のうえに まったく我が意思にまかせられている 流れるリズムのないままに しいんとひとりで 居場所ある者はさいわいと 君は言った…

自分の世界を描いた詩:大いなるものへ

このブログはほとんど見ている人がいないので、気が乗らず放置していたのですが、半年ぶりに更新します。 私の世界 このエピソードはいずれ私のもう一つのブログで書きたいですが、中学1、2年生の時、突然強烈な自我が芽生え、「自分の世界」をもったこと…

詩:鍵を知る者 ―ドナ・ウィリアムズに贈る―

鍵を知る者よ 教えてほしい わたしがなぜここに 繋ぎ止められているのか 母なる器 痩せ果てた大地の封印に 縛めを解く 型はどこに 秘匿されているのか ――組み敷かれた魔方陣 ――解けない鍵穴 ふたつでひとつのからくり 片割れを抱えている あの雲に 差し伸べ…

手記:『踏まないで!』序章から 「落日」

※この原稿は、現在執筆中の手記『踏まないで!』の一部分です。 新ブログ ↓ にも投稿しました。 roots-amanekouko.hatenablog.jp 二〇××年一〇月のある日、Jワークスの機械室で、私は何度目かのパニック発作にのみ込まれていた。 そこは、無機質なコンクリ…

詩:かなしい蟻

かなしい蟻よ どこまで登る 山の頂 いよいよそびえ 足下の土 ぽろぽろ落ちる かなしい蟻よ それでも行くか はためくしるし いよいよ遠く 地は天のもと 引き離される かなしい蟻よ しりもちついて よいこらしょっと 立ち上がるなり 再び細い 足を差し出す か…

詩:終わりの始まり ―ドナ・ウィリアムズに贈る―

あなたを知ったときわたしと思ったあなたはわたし それからあなたの示したわたしを探しに旅立っていった遠くへ 遠くへ…… わたしがわたしになる大地を見つけたときわたしを知らないあなたに橋をかける明日がくるかもしれないと道を急いだ けわしく終わりのな…

詩:記憶の塔

怒濤の保存が行く手をさえぎり 執念の塔となってそびえ立った (日記四九冊) (素描三四冊) (生活二一冊) (会話一七冊) (研究八冊) 記憶×××冊 オドロオドロシイグチャグチャの シドロモドロシイメチャクチャが わたしを救い出してと絡みついて 覚え…