地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

エッセイ:ニコン全消去の悲劇

 撮って撮って撮りまくったニコンデジタルカメラの愛蔵データがすべて――消え去った。二千枚近くはあったろうか。

 消去したい画像を表示させて機械右下の削除ボタンを押すと、ディスプレイ上に、上段に「表示画像」、中段に「 削除画像選択」、下段に「全画像」を選択するメニュー画面が出る。いつも失敗画像を削除するときは 、上段の「表示画像」を選択する。しかしこの時は、操作する右手のマルチセレクターを回す指が滑って全画像消去を選択してしまい、一枚を消去するつもりで、ぼんやりOKの指示を承諾してしまったのである。

 以前愛用していたサービス精神満載のキャノン機種では滅多に触らない階層にあったのに、ニ コンは融通のきかない無骨野郎である。こんな頻繁に操作する階層に「全画像」消去メニューを配置しないでいただきたい。マルチセレクターが滑ったら一巻の終わりだろうが、というか既に 一巻終わったんだよ! と号泣したい心地だった。

 せめて、全消去が実行されるまで慎重に慎重を期するコマンドにしてほしかった。

 

デジカメ:「全消去しますか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「一枚画像ではなく、全データですが、よろしいですか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「もう二度と、復元されませんが、よろしいですか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「本当にそれで、よろしいですか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「あとで後悔しませんか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「そこまで言うなら、消去しますが、異論はありませんか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「思い残すことは一切ございませんか?」
ユーザー:「OK」
デジカメ:「では、実行します」
ユーザー:「早くやれよ!!」

 

 ここまで厳重であれば、間違えて、全消去することも、なかったのだ……。

 

(2013.2.10)

 


【ひとこと】
 過去の日記を整理していたら、いつも書いているダークな作風と毛色の違う文章が出てきたので、エッセイ風に再構成してみた。