一人の客が主人の店を訪れた
往来に面したショーウインドウには
色とりどりの商品が着飾って
見目麗しい愛想を振りまく
客人は百花の陳列に目を奪われ
弾んだ歓声を上げて
ウインドウの端から端を行ったり来たり
ここにあるのは主人の生き写しと
無邪気に微笑みかける
ショーウインドウの終わる場所
狭くひっそり目立たない
往来に面した入口は
店のなかに通路を伸ばす
奥に控える主人は
鍵穴から外を見ていた そうして
客人に向かって心密かに呟いたーー「さようなら」
ショーウインドウに入り口はない
客人は白粉(おしろい)に塗(まみ)れた品物を抱えて
歩み去る幾多の見物人に紛れ
やがて姿が見えなくなった
(2018.4.29)
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【ひとこと】
私は、自分が持っているもう一つの表現に、鑑賞者と作者との本質的なコミュニケーションの通路が通っていないということを書きたかった。
自分の詩が、同じようなイメージに収斂していくようだ。以前もこんな詩を何度か書いたように思う。たぶんこういうのが、私の心象風景なのだろう。
いつも自分のまわりには化粧した漆喰がある。対面者は化粧の名を呼ぶ。その人に、私は別れを告げる。最後に、真実を詩に託して心を切り離す。すると、似たイメージが引き寄せられて、陰気な風景が出来上がる。