地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:アポロンの眼

ディオニソスに魅入られ

葡萄の蔓の絡まる酒杯を享(う)けた

昏い眼光を滾(たぎ)らせ

無形の岩漿*を地に撒いた

 

ピンセットで標本台に載せる

一分の狂いなき手つきでつがえた

アポロンの銀の矢が

杯を貫き

絶対零度の衝撃が

またたく間に岩漿をかためた

 

射手を仰ぎみれば

その瞳は日輪のようにまばゆく

世界を統べている

畏れおののいて わたしはひれ伏した……

一切を留める

精緻な指捌きに口づけて

授かった天秤を掲げると

岩漿に言葉があてがわれる代わりに

凍りついた

 

かれの輝く瞳が わたしを射!

その片割れはわたしに嵌め込まれた

 

  ――音は鎮まった

  ――音は斃(たお)れた

 

砕かれた空の杯を拾い集めたが

鳴らない口にのぼるのは

黙示する予言ばかり

しかしそれは地底に嵩み

くぐもり充ちて

地殻を持ち上げていった

 

もはや

瞼を下ろしたくはない

たとえアポロンの眼光が

刹那に岩漿をかためてしまっても

あやまたず射る指先で

つめたく燃える岩漿を 無形のままとりだし

醒めながら狂い 狂いながら醒めたる

空の杯に満たせよ

轟きわたる

玲瓏の地鳴りのなかで

 

 

* マグマ

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アポロンの眼

(2021.8.15)