地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(4)詩「打ち下ろす槌に」

燃え尽きて

 

 命を賭けていた。森口さんが命を賭けて書いたように。失われた人間の尊厳を取り戻し、社会で生きる権利を確立するために。

 

 人間の尊厳、命の尊厳とは何か?

 

 社会的に抹殺された人の存在が、私には支えだった。裁判をする人の気持ちがわかった。ハンセン病や、いじめでPTSDになった人の記事をよく読んでいた。

 

 〈特殊〉の魂を持った私が、〈特殊〉のまま――自分のまま、〈一般〉に通じる。それは、険しいいばらの道だった。

 逆流性胃食道炎になった。膠原病になった。ストレスが内臓を攻撃して、身体中にできものができたのだ。

 

 どんなに命をかけて『マイノリティ・センス』を書いても、社会に訴えても、無視されるのではないだろうか? 燃え尽き感のような絶望感が、たびたび私を襲った。

 

 世の中と「もめよ」。ある人は、そう助言した。

 

 ハローワークに原稿を持っていき、ある職員に見せた。その人は、私をハローワーク好きにさせてくれた、世の中との大事なコネクションだった。10年間信頼していた、数少ない味方だった。

 

 ところが彼は、コテンパンに私をやっつけた。「書くのは不満。書かずに満足せよ」というようなことをいう。人間の尊厳を回復するために書いているのに、自分の仕事を否定された気がした。その人に「全然悪気はなかった」と判明したが、私はセカンドレイプされたかのように、深く傷ついた。

 

 長年の信頼は、あっけなく地に墜ちた。世の中すべてが敵のようだった。聴覚過敏は悪化していった。

 

 

【打ち下ろす槌に】

 

灼熱の闇に 暗赤の泥濘(ぬかるみ)は底無く

揺れる葦を掻き分け、漬かる膝を引き抜く

慄く掌が虚空を掴み、逃れ行く脚に

煌めく針山の底より 噴き出す業火から

群がる

無数の腕(かいな)、

乾いた亡者らの

骨浮き、皮崩れ、

開け広げた唇に音なく

 

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

 

肉断ち、骨砕き、

槌に染まる血汐を被り、骸らの息絶えず

よろめき立ちて、

なお万力に絡み、絞め殺しの根のごとく

引き摺る腕(かいな)の

剥ぎ、刮(こそ)ぐ、

 

明滅する糸の

啜(すす)られ朽ちゆく

焔、

火先細り

銀河もろとも拉ぐ重力の滑落に

いましも燃え尽きんと

〈明滅する、明滅する、〉

眼上げれば遠く 連なる山塊の頂に

翻る旗は真白く!

雪崩れる山道の落石に塞がれ

指先は霞む白布を…

 

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

 

槌に染まる血汐を被り 絶えぬ骸らの

群がる

無数の腕(かいな)

 

打ち下ろす槌に