地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:反復の安楽と葛藤

生まれたときからここにいた

同じ道順を行ったり来たり

あちらこちらに自分の足跡

両側にそびえる壁は

安楽の砦を築いていた

 

蟻の行列のように

列から外れることはできない

同じ道筋しか歩けない

自分の足跡が踏みしめられた

永遠の反復と往復の快楽

 

それでもそびえ立つ城壁は

視界を遮り閉じ込めた

安らぎを守る代わりに

あやつり人形のように

手足をひろげることを禁じた

 

プログラミングされた身体

自分が何をやっているのか

わからぬままに

同じ軌道を描き続ける

気づけば長い時間が

過ぎ去っていた

 

反復の安楽に没入しながら

機械のコアに手をやった

埋め込まれたシステムが

意識を閉じ込め奪いながら

なお鋭く覚醒させている

 

ふと見上げた城壁は巨大で

圧倒的な高みは視界を遮る

ここから出るのは困難だ

反復の催眠術を破るのは・・・

 

それでもせめて外を眺め

足跡だらけの地面を

見下ろすことができるなら・・・

同じ道筋しか踏めない足が

いつもと違う道に一歩

歩き出すことができるなら・・・

 

反復の鋭い覚醒と催眠に

安らぎつつもおぼえる

怖れと憧れと切ない苦痛

見果てぬ城壁の外の夢

私はここにいたくて

そしてここにいたくもない

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:自分だけの、ただ自分だけの課題

見るも触るもおぞましいのは

いつでも自分のみにくい傷口

自分だけが抱えなければいけない「課題」

その場しのぎでかわすこともできるけど

影は必ず追いすがり立ちはだがってくる

クリアーしたら次の新手があらわれる

大なり小なりそのつど程度は違うけれど

やっぱり自分だけが抱える荷物

 

絶対に逃げることはできない

重く厳しい課題ほど

一生かけて引き受けなければならないもの

ときどき休んでもいいけれど

目を背けて消えるものではない

 

いつも自分をみるのはこわい

メドゥサの首のように石化しそうになるから

でもその目をみた者だけが

深く大きく成長できる

解いた課題が多ければ多いほど

 

ただ自分だけが背負うことができ

ただ自分だけが乗り越えられる

ただ自分だけが解くことができ

ただ自分だけがゼロにすることができる

その能力を持つのは自分のみ

 

(2015.12.19)

『声・まっくら森』

詩:遭難者のわがまま

まな板の上の魚をさばく手つきで

君は器用に問題を分析して

誤りのない正しい道を指し示した

そのとおりだとわかっているから

大人しく引き下がって対策を立てよう

 

でも忘れないでくださいね

流れた涙のあることを

 

地図に引かれた線路のうえに

走る列車の列に送り込むより

見通しの暗い空の下でともに

うろうろ遭難しながら進むことも

ときには必要だということを

 

(2015.12.19)

詩:こだわりのむすびめ

ころんでぶつかってひっかかって

むすびめふやしてこだわって

ほどこうともがいてつまづいて

ながしなさいわすれなさいと

かんたんにひとはいうけれど

たくさんのがぞうやきつけられる

たくさんのきおくがいきつづける

あたまのみょうにかっせいかした

へんてこなきのうどうしたらいいの

きえないえいぞうどうしたらいいの

こんらんするかんかくのうえに

おとがこえがえいぞうがうごきが

じょうほうをふやしつづけて

きょぜつのしんごうびんかんに

しょくしゅをのばしたしんけいに

びりびりびりとながれてくる

からまるいとのうえにまたひとつ

まるいむすびめゆびでなぞって

ひとつひとつかたまりにふれるたび

りょうてでひっしにほどきにかかる

 

(2015.12.19)

『声・まっくら森』収録