地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:沼

贔屓が

グループに入っていたから

みんなが好きになった けれども

ひとりが異様にまばゆく

みんなも 贔屓すらも

背景になり

搔き消された

そのひとりだけが

目に 耳に 浮き出るように

飛び込んでくる

 

どうやら墜ちてしまったらしい

意図するでもなく

手足は沼に絡めとられている

〝熱狂的ファン〟という汚名が

耳に痛い

そんなつもりはなかった のに

果てしなく底無しで……

 

彼の言葉を読んだ

彼は否定しているけれども

ある文士に似ていると囁かれていた

昔、その文士を近親のように慕っていたわたしの

足元はぐらついた

〈この人は、ヤバイ〉

気づけば根っこを探る

指は止まらなかった

それがはじまりだったと思う

 

彼の歌を聴いた

精霊のように儚く

消え入りそうなのに

中原中也の詩が演奏されたような

切り立つ音色で

竜巻の狂気を帯び

突き刺してくる

 

彼の語りを聞いた

日の当たる山頂で

ペンライトを浴び

ふんぞり返っている

偶像たちとはちがって

落ち窪んだ

隕石孔の片隅で

細々と漏れる呟きは

強烈な磁場となって

旋風を巻き起こし

ブラックホールのような

危険な吸引力を放っている

造作のない姿はそのまま

肚の地底を震わす

絶笑の炸裂となる

 

クレバスが

喚んでいる

ただ在るだけの

絶対的佇立

眩しい暗黒!

 

黄昏の眩暈が

わたしを襲った

 

(2022.3.11)