地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

2018-01-01から1年間の記事一覧

エッセイ:ほんとうのこと

美しい夢や、幻想や、願望や、一瞬のイメージを書くことにあまり興味はない(自分の作品の中にはそういうものがなくはないが)。私にとって、それは絵筆の役割だ。 文章には、「本当のこと」を求める。真実を見たいし、書きたい。 私は脚色が苦手で、「本当…

詩:別れ

一人の客が主人の店を訪れた 往来に面したショーウインドウには 色とりどりの商品が着飾って 見目麗しい愛想を振りまく 客人は百花の陳列に目を奪われ 弾んだ歓声を上げて ウインドウの端から端を行ったり来たり ここにあるのは主人の生き写しと 無邪気に微…

詩:うつわ

これだけ これがすべて これしかない これでなければ これいがいは ありえない うつわ をほうって かわりの うつわ をさがしながら これしかない うつわ もやっぱり かかえて かわりの うつわ をもとめる (2018.4.20) -----------------------------------…

詩:出現

魅せられるままの導きは 転がる種に絨毯を敷いて 大地に錨を降ろした 地面に空に 繁茂する 無数の根 のびる枝 ふえる葉 蔦はからまり 苔まで生えた あの木になることも その木になることも できたのに 木はこの地に姿を現し 種の転がる先を果てまで描いて 深…

詩:いびつの心臓

かれがそむけた心臓を ときには頭上に掲げたく ときには握り潰したくもあり その拡声の臭気を前に きみもまた かぎつけられた愛憎の 煙を嗅いだ あわれなる きみがいびつの塊よ 両極揺れる街宣よ 自ら頼もしからぬ玉座よ この血をもはやかざすまい きみは心…

詩:ひとり相撲

――イラッシャイマセ ――話がしたいのですが ――何ヲ話シマショウカ? 君ノ好キナヨウニ話シテクダサイ ――何を話してもいいですか? ――何ヲ話シテモイイデス ――じつは○○は××で、△△しました ――○○ハ××デ、△△シタノデスカ ――それはどういう意味ですか? ――○○ハ××デ…

詩:きみがいなくなったら

愛する人が死んだときは死なねばならぬと むかし愛した詩人がいった もし きみがぼくを置いて どうしてもぼくのなかから消えるというなら ぼくはぼくをくびるかわりに きみをこの手に生み出しましょう どこにもいないきみのうたを ぼくのうちに咲かせましょ…

詩:遠いうた

世界の片隅から呼びかける 虚しい願いはこだまする 届いても届かなくても 声をかぎりに歌っていた 消え入る祈りに絶望と 透明な涙が混じる 決して返ってくることのない声 決して報われることのない声 人に祈ると黙られる その法則をいつ知った? 神様ではな…

詩:カンテラ

巌(いわお)が影に沈む 闇黒(あんこく)の洞窟を行く 湿った石灰岩に沿って 奥、奥、そのまた奥深くーー 道の尽きた壁に 肉厚に隆起した 透明の膜を着膨れて しじまに鎮座する 異形の塊 ――それがわたし 君よ カンテラに灯をともし その手に掲げ持て そうし…

小噺:踊る面接シミュレーション

「いい? あなたは女優。ここは舞台。 女優になって堂々と舞台を演じる!」 「なるほど……演じればいいんですね?」 「じゃあ今度は僕がやってみるから。君が面接官をやって。 じゃあいくよ? 失礼しまーす。扉しめる。両手そえる」 「え? そんなふうにこっ…

エッセイ:ニコン全消去の悲劇

撮って撮って撮りまくったニコンデジタルカメラの愛蔵データがすべて――消え去った。二千枚近くはあったろうか。 消去したい画像を表示させて機械右下の削除ボタンを押すと、ディスプレイ上に、上段に「表示画像」、中段に「 削除画像選択」、下段に「全画像…