地底の声

世の中からズレてる人の文章

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(7)

まなざしとまなざしの交錯

 

 精神保健福祉センターで話を聞いてもらっている人がいた。もはや味方は、その人しかいなかった。

 

 精神科のシンラツ先生は、こう教えてくれた。ふんぞり返って、声のシャワーを浴びせかけるように、奔放にしゃべるが、すこしも傲慢を感じさせない口調で。

 

「こういう状況を理解できる人は限られている。受け取るには勇気と力が要る。もっている人はごく一部。みんな嫌がる。重い? 暗い? そりゃそうだよ。ただ一般の人でも、心開かれる人はいる」

 

「私、誰も読まないかと……」

 

「一般の人は反応がないのが当たり前。理解できるわけない。できるもんならしてみろ! 詩集で一部でもわかってくれた人がいた、って思ったんでしょ? それぐらいの割合。多くの人にわかってもらうのではなく、わかる人が一部いればいい」

 

 冒頭に戻る。だから私は、文芸社のレターに、心底驚いたのである。

 出版社という、〈一般〉社会を代表する人が、〈特殊〉な人間を、作品を認めてくれたことに。〈特殊〉が〈一般〉化することばかり求められる中、〈一般〉の代表者が、〈特殊〉の領域に足を踏み入れようとしてくれたことに。

 

 筋金入りの〈特殊〉が、ただ自分だけの力で、〈一般〉など目指せない。

 それができる内容だと判断したのは、あくまで〈一般〉側に、〈特殊〉を見る目があったからだ。私の〈一般〉に向かうまなざしと、〈一般〉の〈特殊〉に向かうまなざしが交錯しなければ、流通など、交流などできようはずはない。

 

 

まなざしの交錯

 

 

 こうした人は、シンラツ先生のいう通り、ごく限られている。ある意味〈特殊〉な人かもしれない。

 

 〈特殊〉に歩み寄ることのできた、文芸社出版企画部Sさんの知性、力、そして(シンラツ先生いわく)勇気に、心から感謝している。

 

 

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(6)

私に大通りは似合わない

 

 ところが今度は、「マジョリティに向けて広く、わかりやすく!」という理想を目指すミカンさんと、決裂していくことになる。

 

 ミカンさんには、発達障害の家族がいる。その人のことが「わからない」という。だからこそ、同じ事情を抱えている私の〈特殊〉事情を、〈一般〉に「わからせる」ことに、こだわるのだ。

 

 ミカンさんが「わからない」のは、〈特殊〉事情のある人の問題ばかりではなく、彼女の問題であると、私は思った。ミカンさんのアイデンティティは、〈特殊〉な感覚を失い、〈一般〉の感覚に同化しているように思われた。そんな自分の心を、自分で見ることができないと。

 そのような人が、〈特殊〉な人を理解するのは、極めて難しいものだ。ミカンさんは自分の「わからなさ」を、相手に転嫁しているように思われた。

 

 〈特殊〉と〈一般〉が通じ合わない。

 

 そんな時、〈特殊〉が〈一般〉化するばかりでなく、〈一般〉が〈特殊〉化することも、また必要なのだ。それなのに、「〈一般〉が当たり前。お前が〈一般〉化せよ」と一方的に圧力をかけられるのは、苦痛だった。

 

 文芸社は、〈一般〉寄りの出版社という印象があった。〈特殊〉へのまなざしがあるとは、この時は思われなかった。ミカンさんが「文芸社文芸社」と促すたびに、「お前が一方的に〈一般〉化せよ」という執念と圧力を感じ、嫌だった。

 

 私はもう、ミカンさんの口から、文芸社という言葉を聞きたくなかった。終わらせようと思った。だから自分史大賞に応募した。落選通知が来た時、落胆したが、心のどこかでホッとしていた。

 

 私に大通りは似合わない。細い、細い道を行くのだ。誰も通らない道を。

 

 こうして私は、ミカンさんと別れた。

 

 ミカンさんのおかげで、文芸社からの講評をいただけたのかもしれない。感謝している。しかし彼女に、私にダメージを与えた自覚がないこと、大事な友人を失ったことは、残念だった。

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(5)詩「ゆるして」

ゆるして

 

 私の命は許されていない。社会からも。自分からも。

 「もう、許してほしい」と、神に祈った――。

 

 

【ゆるして】

 

 ゝ

ひとひらの風が

窓枠に触れる

 

 ゝ

部屋を撫で

さらう波が

 

 ゝ

沈殿する波と

絡まり合い

 

 ゝ

揺蕩いひらく

ありのままに

 

 ゝ

巻き上がり

生まれる灯の

 

 ゝ

零れ光り

渦巻く流れを

 

 ゝ

ゆるして

ゆるして

 

 

いのちをゆるして

 

 

 偶然、加藤諦三の本を読んで、気づいた。「理解してほしい(するべき)」という願望や必要性を、私はマジョリティに押し広げ、外化していた。そうすることは非現実的であると。

 

 マジョリティは、私にとってマフィアだ。だからこそ「マフィアの権力をやり過ごす」「マフィアを避けて生きる」のが大切ではないのか? マフィアに喧嘩を売る(正当な権利を要求する)よりも、逃げるほうが、自分を大事にできると。

 

 私は自己疎外に陥り、距離感を見失っていた。マイノリティ関係者を想定して、距離感を計りながら、自分の意志を押しつけずに、堂々と述べることが、手記の書き方であると心得た。さらに、私にとって、家の中こそ、潜在的能力の伸びるベストの場所である、と気づいた。

 

 マジョリティに無理な要求をしなくなったので、燃え尽き感は、わずかながらも和らいでいき、聴覚過敏の苦闘は、難所を越えた。

 

 このことが、「過度に〈一般〉を目指せば、自分が潰れてしまう」と確信するに至った理由である――。

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(4)詩「打ち下ろす槌に」

燃え尽きて

 

 命を賭けていた。森口さんが命を賭けて書いたように。失われた人間の尊厳を取り戻し、社会で生きる権利を確立するために。

 

 人間の尊厳、命の尊厳とは何か?

 

 社会的に抹殺された人の存在が、私には支えだった。裁判をする人の気持ちがわかった。ハンセン病や、いじめでPTSDになった人の記事をよく読んでいた。

 

 〈特殊〉の魂を持った私が、〈特殊〉のまま――自分のまま、〈一般〉に通じる。それは、険しいいばらの道だった。

 逆流性胃食道炎になった。膠原病になった。ストレスが内臓を攻撃して、身体中にできものができたのだ。

 

 どんなに命をかけて『マイノリティ・センス』を書いても、社会に訴えても、無視されるのではないだろうか? 燃え尽き感のような絶望感が、たびたび私を襲った。

 

 世の中と「もめよ」。ある人は、そう助言した。

 

 ハローワークに原稿を持っていき、ある職員に見せた。その人は、私をハローワーク好きにさせてくれた、世の中との大事なコネクションだった。10年間信頼していた、数少ない味方だった。

 

 ところが彼は、コテンパンに私をやっつけた。「書くのは不満。書かずに満足せよ」というようなことをいう。人間の尊厳を回復するために書いているのに、自分の仕事を否定された気がした。その人に「全然悪気はなかった」と判明したが、私はセカンドレイプされたかのように、深く傷ついた。

 

 長年の信頼は、あっけなく地に墜ちた。世の中すべてが敵のようだった。聴覚過敏は悪化していった。

 

 

【打ち下ろす槌に】

 

灼熱の闇に 暗赤の泥濘(ぬかるみ)は底無く

揺れる葦を掻き分け、漬かる膝を引き抜く

慄く掌が虚空を掴み、逃れ行く脚に

煌めく針山の底より 噴き出す業火から

群がる

無数の腕(かいな)、

乾いた亡者らの

骨浮き、皮崩れ、

開け広げた唇に音なく

 

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

 

肉断ち、骨砕き、

槌に染まる血汐を被り、骸らの息絶えず

よろめき立ちて、

なお万力に絡み、絞め殺しの根のごとく

引き摺る腕(かいな)の

剥ぎ、刮(こそ)ぐ、

 

明滅する糸の

啜(すす)られ朽ちゆく

焔、

火先細り

銀河もろとも拉ぐ重力の滑落に

いましも燃え尽きんと

〈明滅する、明滅する、〉

眼上げれば遠く 連なる山塊の頂に

翻る旗は真白く!

雪崩れる山道の落石に塞がれ

指先は霞む白布を…

 

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

〈これでもかこれでもか、〉打ち下ろす

 

槌に染まる血汐を被り 絶えぬ骸らの

群がる

無数の腕(かいな)

 

打ち下ろす槌に

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(3)

〈自分の部屋〉を〈通路〉の一部にしたくない

 

 『マイノリティ・センス』がおおかたできあがった時、下読みした人の評価はさんざんだった。重い。暗い。わかりにくいと。読んでもらえない人が半数いた。そもそも「読めない」というのだ。

 

 本の内容自体に関しては、それなりの自負はあった。なにせ、聴覚過敏に関して、世の中にはない秘密を、自分で解き明かした。世の中にないメソッドを、自分で築いた。世の中にない思想を、自分で編み上げた。世の中にない治療法を、自分で確立した。

 しかし、とにかく〈一般〉向きではないことを、私は思い知った。

 

 本の重要人物として登場する、一緒に推敲してくれた人(仮にミカンさんとする)がいた。ミカンさんは、私が〈特殊〉の世界でとどまり、くすぶっているのを、〈一般〉に開放しようとした。

 

「あなたのまわりにいるのはマジョリティ(多数派)でしょう? わかってもらわなきゃならないでしょう? だからマジョリティに向けて、広く! わかりやすく! やさしく!」

 

 というのだった。文芸社への投稿を勧めたのも、ミカンさんだった。

 

 人に通じるわかりやすい表現を目指すことには、賛成だった。しかし2つの点で、私は抵抗した。

 

 一つは、私の〈特殊〉な感性を〈一般〉に合わせすぎると、その繊細さや、複雑さや、独自性が壊されることだった。あたかも〈自分の部屋〉が〈通路〉の一部にされてしまうように。

 〈一般〉化されて自分の表現ではなくなることは、苦痛だった。〈自分の部屋〉を守りたかった。

 

 

私の部屋を通路にしないで

 

 

 もう一つは、対象読者をマジョリティにするのは無理がある、という思いだった。

 二人の言葉が私を導いていた。

 本に登場する、ひきこもり支援にかかわっているアンゴウさんは、「マジョリティにわかってもらわなくてもいい」と言った。

 哲学者の中島義道も、「彼らを打ちのめすことはできない。彼らの考えを変えようなどというフトドキ千万なことを試みてはならない」と『カイン』で語っていた。

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(2)

オーダー・メイド

 私が直面している発達障害の問題もそうである。

 私の問題と需要を解決できる情報が、世の中にはない。世の中の問題と需要を解決できる情報が、私の中にはない。私の問題と需要は、世の中の問題と需要とは重なり合わない。“ちょっと”はあるかもしれないが、微々たるものである。

 

 だから私は、何を書いても「所詮、自分のオーダーメイドにしかならない」という虚しさを、たびたび感じる。自分の問題とその解決策が〈特殊〉すぎて、ほかの人に「使えない」。ほかの人の問題とその解決策が、私の〈特殊〉な問題に合わず、「使えない」。

 

 社会のあらゆる場所で、私はそう言われてきた。「〈特殊〉なあなたに合った場所は、情報は、解決策はない」と。

 

 ある人は言った。「それでも自分の問題を考えるのは大事だ」と。その言葉を胸に、延々と、自分の〈特殊〉な問題を考えてきた。

 

 

特殊な自分のままで

 

〈特殊〉と〈一般〉のはざまで ―文芸社の講評に寄せて―(1)

〈特殊〉vs〈一般〉

 文芸社の講評を読んで、まず目に飛び込んできたのは、「全国流通を目指していただける内容」という文字だった。

 「無理」だと思っていた。「それを目指しては私が潰れてしまう」と思っていた。

 その理由を整理してみる。

 

 〈特殊〉vs〈一般〉。この構図に引きずり回されてきた。

 

 ざっくり書くと、私は〈特殊〉な感覚〈マイノリティ・センス〉のために、社会の中で生きる場所を失った。重い後遺症に苦しめられた。だから命の尊厳を賭けて、〈マイノリティ・センス〉を社会的に認めてほしいと訴えたのが、自家製本『マイノリティ・センス』である。

 

 自閉症者の森口さんは、最初の著書を半年かけて書き、半年かけて推敲したと『自閉女の冒険』に書いている(147頁)。なぜそんなに早く書けたのだろう。

 私は難産も甚だしかった。2017年から執筆を始め、3年かけて11回推敲した。5年もかかっていることになる。やってもやっても終わらなかった。「自分語」を乱造しなければ言いたいことを表せないなど、表現が〈一般〉向きではなかったのである。

 

 詩でも、ブログでも、私のコミュニケーションにはすべて、この構図がつきまとう。多くの人は〈一般〉の世界に住んでいるが、私は何を言っても、やっても、骨の髄まで〈特殊〉だった。

 

 

特殊と普遍

 

日記「『マイノリティ・センス』の講評に”言葉を失う”ほど震撼した」 詩「ただ一人の観客へ」

 東京オリンピックが閉幕し、新型コロナウイルス第5波が落ち着き始めた2021年初秋。一通のレターパックがポストに入っていた。文芸社から届いた、聴覚過敏手記『マイノリティ・センス』の講評だった。

 

『マイノリティ・センス』

 

 この春、文芸社主催の自分史大賞「人生十人十色大賞」に応募し、先月、落選した。理由と講評が知りたいと電話したところ、担当者が送ってくれたのだ。


 講評には、作品を評価する言葉が連ねられていた。

 

 その時受けた私の衝撃を、どう表現すればよいだろう? いつも無視ばかりされる私にふさわしくない、過分なる現実。これは夢か? 心のあまりに深い部分が震撼した。言葉にならない歓喜が爆発した。講評に「読み進めながら言葉を失う」とあったが、私も同じように、“言葉を失った”。泣いてしかるべきほどのパッションだ。

 ところが、ちょうどその時、聴覚過敏の痛みに意識を奪われていた。内なる闘いに燃え尽きて、心の底に降りていくエネルギーがなく、感情が麻痺しているようだった。


 しかしその瞬間、私の人生の何かが“変わった”。聴覚過敏の長い闘いの、重大なるターニングポイントを迎えた。心の支えができた。それほどの衝撃を、とても言語化することはできなかった。


 森口奈緒美著『自閉女の冒険』を読んだ時も、同じような感情の麻痺が起こった。あまりに「凄い」ものを前にすると、言葉を失ってしまう。1回読んで、「凄い」という感想しか出て来なかった。何が「凄い」のか言語化できないほどに「凄かった」。

 感想の言葉を列挙する前に、私の人生はすでに変わっていた。森口さんの生きた軌跡が、私の日常のいろんな場面にオーバーラップし、浸透してしまったのだった。

 2回目を読んでみたが、感想が湧きすぎて、なかなか読み進められなかった。その一つひとつを、言語化するのは難しかった。どの思いをピックアップして感想文を書けばよいのか、わからないほどだった。

 

 その森口さんも書いていたっけ。

それは、本当に、本当に、本当に、夢みたいなお話だった。我が人生で最高の日。宝くじに当たるよりも凄い出来事だ。(『自閉女の冒険』、遠見書房、2020年、166頁)

 講評を受け取った日も、私にとって「我が人生で最高」に近い日に間違いなかった。

 

 さて、講評を読み返す「感動に堪える力を蓄える」ために、私は身辺の雑事を片付けた。心の重大なる局面に降りていく、階段を整えるように。その階段で、2日もうろうろ足踏みしていたのである。

 そうして私は、もう一度、文芸社からのレターをまじまじと読んだ。

 

 

                  *

 

 

【ただ一人の観客へ】

 

嬉しや嬉し作品に

読者がついてございます

孤独の作業日の目見る

日が訪うと思わずに

今日までひとり黙々と

言霊綴っておりました

 

嬉しや嬉し作品に

読者がついてございます

誰もが求む拍手の音

人のこころに見出して

観客いない寂しさを

文字刻む手に知ったもの

 

嬉しや嬉し作品に

読者がついてございます

ようこそ遠路はるばると

いらっしゃいましあなたさま

観客席のただ一人

感謝感激送ります

 

 

(2017.1.21 『声・まっくら森』に収録)

 

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【ひとこと】

昔書いた詩。

「読者がついてございます」のところが、囃し立てるみたいで、

我ながらもう少しよい表現はないかと思うが、

韻を踏むために苦労したところなので、今のところ、

よい表現が、ほかに見つからない。

詩「花吹雪」

遠い故郷を浮かべ

群青を帯び輝く細面が

水中に揺らぐように

潤む月は 夜闇に光沢を湛え

ぴんと張ったしずかな冷気が

月の無言を呑んでいる

しやめかな夜空に

 

散る

散る

熟れてゆく樹幹から離れ

透き通る白い花弁が

裸体のままひらき

無数の歌になって

 

 Good bye

 Good bye

 

一生分の準備を乗せ

旅立つ花吹雪

樹幹を搾りきるように

夜空をいっせいに昇ってゆく

遠い月に向かって

 

 Under the same sky

 If you are happy…

 

満ちる

樹幹から千切れて――

 

 

(2021.初春 蒼炎浪漫 Vol.19 収録)

詩「アポロンの眼」

ディオニソスに魅入られ

葡萄の蔓の絡まる酒杯を享(う)けた

昏い眼光を滾(たぎ)らせ

無形の岩漿*を地に撒いた

 

ピンセットで標本台に載せる

一分の狂いなき手つきでつがえた

アポロンの銀の矢が

杯を貫き

絶対零度の衝撃が

またたく間に岩漿をかためた

 

射手を仰ぎみれば

その瞳は日輪のようにまばゆく

世界を統べている

畏れおののいて わたしはひれ伏した……

一切を留める

精緻な指捌きに口づけて

授かった天秤を掲げると

岩漿に言葉があてがわれる代わりに

凍りついた

 

かれの輝く瞳が わたしを射!

その片割れはわたしに嵌め込まれた

 

  ――音は鎮まった

  ――音は斃(たお)れた

 

砕かれた空の杯を拾い集めたが

鳴らない口にのぼるのは

黙示する予言ばかり

しかしそれは地底に嵩み

くぐもり充ちて

地殻を持ち上げていった

 

もはや

瞼を下ろしたくはない

たとえアポロンの眼光が

刹那に岩漿をかためてしまっても

あやまたず射る指先で

つめたく燃える岩漿を 無形のままとりだし

醒めながら狂い 狂いながら醒めたる

空の杯に満たせよ

轟きわたる

玲瓏の地鳴りのなかで

 

 

* マグマ

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アポロンの眼

(2021.8.15)