地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

〈自己愛〉と〈他者愛〉のはざまで(6) 詩:〈敵〉と〈味方〉

 E氏と対決した。

 偉そうなことをまくしたててしまったかもしれないが、懸命に意思表示した。

 E氏の立場として、そういうふうにしか生きられなかった、と判明した。

 和解した。誇りを感じた。

 こうして私は、クリニックを辞めた。

 

 

〈敵〉と〈味方〉

 

ありのままのじぶんであることを許さない

〈敵〉の砲弾に追われ

匿われた〈味方〉のアジトで

わたしたちは出会った

〈味方〉の毛布に包みこまれたとき

〈敵〉のにおいがした

 

〈敵〉か〈味方〉か

〈外〉か〈内〉か

〈彼方〉か〈此方〉か

――ばかばかしい

わかっていた

わたしたちが対立する勢力であることは

わたしたちが存在の基底に根をおろし

魂の向かう地平へこころざすほど

欲望をみずからの良心にしたがい

とおくに飛翔させるほど

逆さまの夢がひろがることは

 

目のまえで毛布に包みこむ手は

わたしを垣根の外に追いやった

魂の群れ

わたしの心とからだを蝕んだ

視えない因縁

ならば良し

あなたと対立するために選び選ばれた

あなたの懐にわたしの懐を映し

わたしの懐にあなたの懐を映すために

抱擁する手で拒絶し

拒絶する手で抱擁するために

北極と南極ふたつの頂が

撞着のかなたを突破し

かたみに出会うために

わたしたちは同志になった

 

気づけばあなたが仲間の魂を率いて

わたしを包囲していた

〈敵〉の砲弾がふたたび聞こえてきた

あなたはやはりわたしを毛布で包みながら

〈味方〉に引き入れようと甘くささやいた

ついに訣別の予感がはじけ

わたしは毛布を払いのけ重々しく告げた

〈敵〉にも〈味方〉にもならない

このアジトを出てゆく

向かい合ったわたしたちの

視線は空中でするどく衝突し

的に刺さった そして

その瞳に映ったじぶんの姿をみとめた……

微笑んだわたしは砲弾の嵐へ

飛び出していった

 

(2022.4.15 蒼炎浪漫vol.23掲載)