地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:自己嫌悪

おぞましい

自分の姿を見よ

そして

愛せるようになれ

 

無理だ

落胆しているよ、ほとほと嫌気が差してるよ

いのちの根っこまで

幻滅しきっているよ

 

そんなおぞましい自分を

「受容」なんてしなくていいから

幻滅するままに

知るんだ

 

ほとほとあきれ果てた自分が

幻滅の思いそのままに

しみじみあふれ出してくるまで

あふれ出させよ

 

ああ

こんな私なのだと

こんな私なのだなあと

しみじみ感動できるまで

 

我がおぞましい

自分の姿

悲しく微笑みながら

ようこそ

 

(2015.12.14)

『声・まっくら森』に収録

詩:誤解

「なんともない」よう取り繕った技巧の数々が

「目立たぬ」よう塗りたくった保護色の数々が

「人並みになる」よう蓄積した知識の数々が

「悪いところを直す」よう訓練した反射神経の数々が

「まともになる」よう刻苦精励した経験値の数々が

 

ふつうを演じた手練手管の展覧が

千手観音の手さばきに結んだ見目麗しい映像が

向上の頂に積み上げた配慮の羅列が

 

あなた方を惑わせる

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:瞑目に花開く安息

瞑目に花開く深い蒼闇

華やかな陽光を避ける陰の溜り

青緑の草触れる音囁く涼風

人知れず止まる足跡

 

ここへ・・・

 

不安と後悔と自責を置き

虚ろな思いを沈め埋める

壊れた悲しみを振るい

埋もれた記憶を汲み出だす

 

静寂に鳴る夜微笑に想溢れ満ちる安息

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:ほんとは君を恨んでいるんだ

怒りの炎に鎮魂を

微かな火の粉は消滅しても

握りつぶした業火は

掌から放たれ再び羽ばたく

 

君たちに注ぐ穏やかな眼差し

目の奥に眠る揺るがぬ記憶

気づけば内向いて打ち殺す

憎き自分に制裁を・・・

 

握りつぶした業火は

再び燃え盛り鞭を捕る

「ほんとは君を恨んでいるんだ」

ほんとは世界中の君を・・・

 

私を苦しめ安息を奪った君を

何も知らず我正しいと笑う君を

悲鳴を聴く耳無く踏みにじる君を

黒い記憶の干からびた主を

 

鞭の絡まった肢体の傷に

注ぐ血を君に浴びせる

混じり流れる涙はなんのため?

歪む空を眼を開き問う

 

それでも奇跡の邂逅は

生まれいづる新たな記憶

取り交わされる手と手

微笑みに映す無邪気な君の姿

 

消えたい

忘れたい

泣きたい

赦したい

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』収録

詩:barrier

barrierが邪魔をするんだ

僕の前に

自分を守るために囲い込んだ

皮膚と生理が蛹のように覆った

冷たく硬い殻

 

barrierが足りないんだ

僕のまわりに

溢れる音を拾い集め調節し

肉体と精神を脅かすものから

均衡を保つ把手

 

barrierが重いんだ

僕の心に

不安と恐怖と孤独感を植えつける

開いていれば安全なのに

憂鬱には必要の門

 

扉を開けて一人逃げ出した

暗い部屋の奥へ

ざわめきは次第に巨大な渦となって

barrierを破りbarrierを強靭にした

barrierのためにbarrierが生まれる・・・

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:世界

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

閉ざされた2つの扉

帰ろうときびすを返す

でももうそこには何もない

見捨てられた赤子のように

まっさかさまに落ちていく

"はざまの世界"へ・・・

 

ありのままにあるうねり

ぼやけた輪郭に夢をみた

こころはあなたのイデアを宿し

虚空に鮮やかに映し出した

手を結んでもう二度と離れない

けれども私は知らなかった

あなたがいると思っていたのに

 

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

うねりにのまれて生まれるこころ

それはあなたのうつし鏡

こころが創ったあなたの似姿

こころが宿したあなたの原型

私のすべてを支配した

うねりにのまれて生まれたこころ

 

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

置き去りにされた記憶が

忘れられた望みが見失った夢が

形のない黄色い未曾有の混沌に

未分化の原核に分裂した

閉ざされた2つの扉

喪った感覚に流れるこころ

うねりにのまれて生まれたこころ

 

(2015.12.19)

詩:limit

溢れる刺激が手のひらを超え

容器の目盛を突き破る

一つ、二つ、三つ・・・

縦横無尽の熱気揺らぐ昼刻

 

満ち零れた信号

乱れる均衡に陰る鮮やかさ

手招きする惑乱に目を汚す

ひとつところに癒着する意識

固定する視線が高見の旗を狂わせる

混沌の渦に崩れた片膝を覆う

入り組んだ感情の交錯

無尽に奏でる危機の鐘

 

溢れる刺激が手のひらを超え

容器の目盛を突き破る

四つ、五つ、六つ・・・

縦横無尽の熱気揺らぐ昼刻

耳の下をひたひたと

無尽に奏でる危機の鐘

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:実在発現病的顕在

お前の上に落としてやる

忘れられないんだろう?

だったら爆弾にもなるさ

信じるからこそ見てるのさ

実在発現心夢想病的顕在

避け隠れるようになったね

どこまで逃げるつもり?

雷はいつ何時でも降り注ぐ

誰にも見えない存在の幻を

お前自ら輪郭を与えている

お前自ら存在を許している

塞がれた目では気づかない

ようやく気付いたようだね

それでも頭上に降り注ごう

今日も明日もまた明後日も

破壊者はお前と共にある

私を恐れながら携えている

その握った拳を見てごらん

 

(2015.12.20)

詩:反復の安楽と葛藤

生まれたときからここにいた

同じ道順を行ったり来たり

あちらこちらに自分の足跡

両側にそびえる壁は

安楽の砦を築いていた

 

蟻の行列のように

列から外れることはできない

同じ道筋しか歩けない

自分の足跡が踏みしめられた

永遠の反復と往復の快楽

 

それでもそびえ立つ城壁は

視界を遮り閉じ込めた

安らぎを守る代わりに

あやつり人形のように

手足をひろげることを禁じた

 

プログラミングされた身体

自分が何をやっているのか

わからぬままに

同じ軌道を描き続ける

気づけば長い時間が

過ぎ去っていた

 

反復の安楽に没入しながら

機械のコアに手をやった

埋め込まれたシステムが

意識を閉じ込め奪いながら

なお鋭く覚醒させている

 

ふと見上げた城壁は巨大で

圧倒的な高みは視界を遮る

ここから出るのは困難だ

反復の催眠術を破るのは・・・

 

それでもせめて外を眺め

足跡だらけの地面を

見下ろすことができるなら・・・

同じ道筋しか踏めない足が

いつもと違う道に一歩

歩き出すことができるなら・・・

 

反復の鋭い覚醒と催眠に

安らぎつつもおぼえる

怖れと憧れと切ない苦痛

見果てぬ城壁の外の夢

私はここにいたくて

そしてここにいたくもない

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:自分だけの、ただ自分だけの課題

見るも触るもおぞましいのは

いつでも自分のみにくい傷口

自分だけが抱えなければいけない「課題」

その場しのぎでかわすこともできるけど

影は必ず追いすがり立ちはだがってくる

クリアーしたら次の新手があらわれる

大なり小なりそのつど程度は違うけれど

やっぱり自分だけが抱える荷物

 

絶対に逃げることはできない

重く厳しい課題ほど

一生かけて引き受けなければならないもの

ときどき休んでもいいけれど

目を背けて消えるものではない

 

いつも自分をみるのはこわい

メドゥサの首のように石化しそうになるから

でもその目をみた者だけが

深く大きく成長できる

解いた課題が多ければ多いほど

 

ただ自分だけが背負うことができ

ただ自分だけが乗り越えられる

ただ自分だけが解くことができ

ただ自分だけがゼロにすることができる

その能力を持つのは自分のみ

 

(2015.12.19)

『声・まっくら森』

詩:遭難者のわがまま

まな板の上の魚をさばく手つきで

君は器用に問題を分析して

誤りのない正しい道を指し示した

そのとおりだとわかっているから

大人しく引き下がって対策を立てよう

 

でも忘れないでくださいね

流れた涙のあることを

 

地図に引かれた線路のうえに

走る列車の列に送り込むより

見通しの暗い空の下でともに

うろうろ遭難しながら進むことも

ときには必要だということを

 

(2015.12.19)

詩:こだわりのむすびめ

ころんでぶつかってひっかかって

むすびめふやしてこだわって

ほどこうともがいてつまづいて

ながしなさいわすれなさいと

かんたんにひとはいうけれど

たくさんのがぞうやきつけられる

たくさんのきおくがいきつづける

あたまのみょうにかっせいかした

へんてこなきのうどうしたらいいの

きえないえいぞうどうしたらいいの

こんらんするかんかくのうえに

おとがこえがえいぞうがうごきが

じょうほうをふやしつづけて

きょぜつのしんごうびんかんに

しょくしゅをのばしたしんけいに

びりびりびりとながれてくる

からまるいとのうえにまたひとつ

まるいむすびめゆびでなぞって

ひとつひとつかたまりにふれるたび

りょうてでひっしにほどきにかかる

 

(2015.12.19)

『声・まっくら森』収録