詩:なにがなんだかわからない
突然ぽっかり開いた穴に放り込まれる
なにがなんだかわからない
自分がどういう位置に陣取っていて
相手にどういう作用をもたらしたのか
困窮と違和のもみくちゃに
今にも押し潰されそうなのに
どうして一方的にあなたがたが迫ってくるのか
どうして双方向ではないのか
確かに 私が意思表示したんだっけか
確かに 私が進んでかかわったんだっけか
それにしても なにがなんだかわからない
人の隙間に張り巡らされた状況というやつは……
向こうは向こうの都合で押し込んでくる
こちらは現在地も見えずに戸惑うばかり
結局 ぜんぜんかみあっていない
結局 なんのためにそうしたのかわからない
そのわからないことが また伝わっていない
伝わっていないまま 表面上は和やかに
微笑ましい人助けの会議は進行する
前向きなコミュニケーションが回転する
かかわった私が悪いとなだめすかしても
まただ、またこの落とし穴だと
四方八方にそそり立つ壁に圧倒され
泣けない心臓がキリキリ掴まれる
なにがなんだかわからないことが
なにがなんだかわからない私が見えないあなた方に
なにがなんだかわかるはずがない
かくして 私はいつものように退散する
(2015.12.20)
『声・まっくら森』に収録
詩:瞑目に花開く安息
瞑目に花開く深い蒼闇
華やかな陽光を避ける陰の溜り
青緑の草触れる音囁く涼風
人知れず止まる足跡
ここへ・・・
不安と後悔と自責を置き
虚ろな思いを沈め埋める
壊れた悲しみを振るい
埋もれた記憶を汲み出だす
静寂に鳴る夜微笑に想溢れ満ちる安息
(2015.12.20)
『声・まっくら森』に収録
詩:ほんとは君を恨んでいるんだ
怒りの炎に鎮魂を
微かな火の粉は消滅しても
握りつぶした業火は
掌から放たれ再び羽ばたく
君たちに注ぐ穏やかな眼差し
目の奥に眠る揺るがぬ記憶
気づけば内向いて打ち殺す
憎き自分に制裁を・・・
握りつぶした業火は
再び燃え盛り鞭を捕る
「ほんとは君を恨んでいるんだ」
ほんとは世界中の君を・・・
私を苦しめ安息を奪った君を
何も知らず我正しいと笑う君を
悲鳴を聴く耳無く踏みにじる君を
黒い記憶の干からびた主を
鞭の絡まった肢体の傷に
注ぐ血を君に浴びせる
混じり流れる涙はなんのため?
歪む空を眼を開き問う
それでも奇跡の邂逅は
生まれいづる新たな記憶
取り交わされる手と手
微笑みに映す無邪気な君の姿
消えたい
忘れたい
泣きたい
赦したい
(2015.12.20)
『声・まっくら森』収録
詩:barrier
barrierが邪魔をするんだ
僕の前に
自分を守るために囲い込んだ
皮膚と生理が蛹のように覆った
冷たく硬い殻
barrierが足りないんだ
僕のまわりに
溢れる音を拾い集め調節し
肉体と精神を脅かすものから
均衡を保つ把手
barrierが重いんだ
僕の心に
不安と恐怖と孤独感を植えつける
開いていれば安全なのに
憂鬱には必要の門
扉を開けて一人逃げ出した
暗い部屋の奥へ
ざわめきは次第に巨大な渦となって
barrierを破りbarrierを強靭にした
barrierのためにbarrierが生まれる・・・
(2015.12.20)
『声・まっくら森』に収録
詩:世界
巨大なうねりが追いついて
身体を包み込んだけど
私に触れることはできない
閉ざされた2つの扉
帰ろうときびすを返す
でももうそこには何もない
見捨てられた赤子のように
まっさかさまに落ちていく
"はざまの世界"へ・・・
ありのままにあるうねり
ぼやけた輪郭に夢をみた
こころはあなたのイデアを宿し
虚空に鮮やかに映し出した
手を結んでもう二度と離れない
けれども私は知らなかった
あなたがいると思っていたのに
巨大なうねりが追いついて
身体を包み込んだけど
私に触れることはできない
うねりにのまれて生まれるこころ
それはあなたのうつし鏡
こころが創ったあなたの似姿
こころが宿したあなたの原型
私のすべてを支配した
うねりにのまれて生まれたこころ
巨大なうねりが追いついて
身体を包み込んだけど
私に触れることはできない
置き去りにされた記憶が
忘れられた望みが見失った夢が
形のない黄色い未曾有の混沌に
未分化の原核に分裂した
閉ざされた2つの扉
喪った感覚に流れるこころ
うねりにのまれて生まれたこころ
(2015.12.19)
詩:実在発現病的顕在
お前の上に落としてやる
忘れられないんだろう?
だったら爆弾にもなるさ
信じるからこそ見てるのさ
実在発現心夢想病的顕在
避け隠れるようになったね
どこまで逃げるつもり?
雷はいつ何時でも降り注ぐ
誰にも見えない存在の幻を
お前自ら輪郭を与えている
お前自ら存在を許している
塞がれた目では気づかない
ようやく気付いたようだね
それでも頭上に降り注ごう
今日も明日もまた明後日も
破壊者はお前と共にある
私を恐れながら携えている
その握った拳を見てごらん
(2015.12.20)
詩:反復の安楽と葛藤
生まれたときからここにいた
同じ道順を行ったり来たり
あちらこちらに自分の足跡
両側にそびえる壁は
安楽の砦を築いていた
蟻の行列のように
列から外れることはできない
同じ道筋しか歩けない
自分の足跡が踏みしめられた
永遠の反復と往復の快楽
それでもそびえ立つ城壁は
視界を遮り閉じ込めた
安らぎを守る代わりに
あやつり人形のように
手足をひろげることを禁じた
プログラミングされた身体
自分が何をやっているのか
わからぬままに
同じ軌道を描き続ける
気づけば長い時間が
過ぎ去っていた
反復の安楽に没入しながら
機械のコアに手をやった
埋め込まれたシステムが
意識を閉じ込め奪いながら
なお鋭く覚醒させている
ふと見上げた城壁は巨大で
圧倒的な高みは視界を遮る
ここから出るのは困難だ
反復の催眠術を破るのは・・・
それでもせめて外を眺め
足跡だらけの地面を
見下ろすことができるなら・・・
同じ道筋しか踏めない足が
いつもと違う道に一歩
歩き出すことができるなら・・・
反復の鋭い覚醒と催眠に
安らぎつつもおぼえる
怖れと憧れと切ない苦痛
見果てぬ城壁の外の夢
私はここにいたくて
そしてここにいたくもない
(2015.12.20)
『声・まっくら森』に収録
詩:自分だけの、ただ自分だけの課題
見るも触るもおぞましいのは
いつでも自分のみにくい傷口
自分だけが抱えなければいけない「課題」
その場しのぎでかわすこともできるけど
影は必ず追いすがり立ちはだがってくる
クリアーしたら次の新手があらわれる
大なり小なりそのつど程度は違うけれど
やっぱり自分だけが抱える荷物
絶対に逃げることはできない
重く厳しい課題ほど
一生かけて引き受けなければならないもの
ときどき休んでもいいけれど
目を背けて消えるものではない
いつも自分をみるのはこわい
メドゥサの首のように石化しそうになるから
でもその目をみた者だけが
深く大きく成長できる
解いた課題が多ければ多いほど
ただ自分だけが背負うことができ
ただ自分だけが乗り越えられる
ただ自分だけが解くことができ
ただ自分だけがゼロにすることができる
その能力を持つのは自分のみ
(2015.12.19)
『声・まっくら森』
詩:遭難者のわがまま
まな板の上の魚をさばく手つきで
君は器用に問題を分析して
誤りのない正しい道を指し示した
そのとおりだとわかっているから
大人しく引き下がって対策を立てよう
でも忘れないでくださいね
流れた涙のあることを
地図に引かれた線路のうえに
走る列車の列に送り込むより
見通しの暗い空の下でともに
うろうろ遭難しながら進むことも
ときには必要だということを
(2015.12.19)
詩:こだわりのむすびめ
ころんでぶつかってひっかかって
むすびめふやしてこだわって
ほどこうともがいてつまづいて
ながしなさいわすれなさいと
かんたんにひとはいうけれど
たくさんのがぞうやきつけられる
たくさんのきおくがいきつづける
あたまのみょうにかっせいかした
へんてこなきのうどうしたらいいの
きえないえいぞうどうしたらいいの
こんらんするかんかくのうえに
おとがこえがえいぞうがうごきが
じょうほうをふやしつづけて
きょぜつのしんごうびんかんに
しょくしゅをのばしたしんけいに
びりびりびりとながれてくる
からまるいとのうえにまたひとつ
まるいむすびめゆびでなぞって
ひとつひとつかたまりにふれるたび
りょうてでひっしにほどきにかかる
(2015.12.19)
『声・まっくら森』収録