地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:隣人

足音たかく

雪崩れる嵐に乗って

賊の頭巾をかぶった隣人が

柵をまたぐ

花壇の若芽を

踏み荒らし

扉を蹴破りざま

きみの鼓膜の奥にするどく

怒号する

〈俺の家のものになれ!〉

〈俺の家になれ!〉

〈俺になれ!〉

 

散乱する家具

きみは背後のない壁を後じさり

鞄からこっそり

鉛筆を取り出して

見下ろす隣人を捉えた

震える手でかれの姿を

紙切れに刻みつけた

 

〈俺になれ!〉

怒号は筆跡のなかに

きみの家を建てた

 

〈おまえの家のものにならない!〉

〈おまえの家にならない!〉

〈おまえにならない!〉

 

柵のない柵の 境界に

やわらかく かたい

流れる不動の

礎石の上に

おまえは おまえ

きみは きみ

俺は 俺

 

(2022.1.30)