地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:イジワル

わたしはイジワルだった

どんなに尊敬されようとも

実はわたしはイジワルだった

確かにあなたはドンヨリ鈍い、昏い、疎い

それゆえにこれっぽっちも心打たず

それゆえにわずらわしくて

イジワルしちゃった

 

どんなに謝っても謝りきれない

額を地面にこすりつけ

罪の意識に埋もれるほどに

それでも申し開きはできない

確かにわたしのきたない心根は

ウゼーンダヨと大さわぎした

正義の顔で指差した

 

ああ ゆるしてください

あなたをわずらわしがったわたしを

あなたをどうしても好きになれなかったわたしを

それゆえにみにくく染まり

いいひとを装いながら

ほんとうはイジワルだった

きたないイジワル女を

 

(2016.2.17)

詩:これっぽっちのさいわい

ふと 命綱を切り離した

白く照らし出された地上に満ちる禍(わざわい)

無関係のまま皮膚に調和した

 

昔は幸せでも不幸せでもなかった

路傍の刹那は

ありのままでいられると 凱歌を放った

 

ふと 命綱を切り離した

白く照らし出された地上に満ちる禍は

しばしの浸透に寝入った

 

たったこれっぽっちのあたりまえよ!

たったこれっぽっちの

豊穣なるさいわいよ!

詩:罠

まったくえらい目に遭った

規則正しく折り目正しく

生活していたはずなのに

こんな罠があったとは

 

まったくえらい目に遭った

体調リズム気遣い万全

抜かりなかったはずなのに

藪から棒につかまった

 

まったくえらい目に遭った

しばし休憩してからさてと

波に乗ろうと身を委ね

あれよあれよと舵取られ

 

まったくえらい目に遭った

壊れた欠片まじまじ眺め

無意識埋まるシナリオに

こんな奈落があったとは

 

まったくえらい目に遭った

一度狂った歯車のネジ

そうそうもとに戻りゃせん

ヤレヤレまずは早寝せよ

 

(2016.1.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:記憶の鎖

心の深手を背負ったまま

言葉を操り書くことも

歌うことも踊ることも

涙を流し悲しむことも禁じられ

空想の檻に閉じ込められて

記憶の中で自傷する君

人間らしさを奪われて

気が遠くなるほど長い年月

頭でさまよった反復の日々

どうかほんの少しずつでも

話してほしい泣いてほしい

表現を怖れず開いてほしい

冷凍した記憶を温かくほどき

溶かして再び生きてほしい

 

(2016.1.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:知らせ

縁なき後も消しあぐねていたアドレスを

思い切って棄てた直後に知らせは来た

葬儀場に駆けつけたとき

あなたは花に囲まれて

人々の涙のなかに咲いていた

長い年月見なかったその顔は

確かにあなたで

女神のように美しく

重い安らぎに胸を衝かれた

 

愛する人に忙しく

あなたはわたしを忘れてしまったかもしれないが……

わたしはいつまでも覚えていて

どうして逝く前に一言声をかけてくれなかったのかと

涙にくれた

 

困難に打ちひしがれるわたしに

あなたは知恵を与えてくれた

それが最後とはつゆも知らずに

 

人々に素晴らしく愛され

人々に素晴らしく惜しまれた

あれほど高い魂を持ったあなたが死ぬなんてありえない

けれども

あれほど高い魂を持ったあなただからこそ

ときが来ていたのだと

今ではわかる

 

あなたはわたしを忘れてしまっただろうが……

もう一度 教え示してください

わたしはいつになっても

あなたに顔向けならないままでしたが。

 

(2016.1.1)

『声・まっくら森』に収録

詩:声

わたしの中にある ふんわりしたやさしいこころを取り出して

まじまじと眺めてみる

やさしい、あたたかい、いとしい、やわらかい……

握り潰してそ知らぬ顔で棄てていた きみは

一体どこに どうしていたの

忘れてしまったやさしいきみは わたしに笑みを投げかける

 

ときどきは

こころを失ってしまうこともある

背を向け、拒絶して、急ぎ足で

死んだ瞳をのっそり投げ出して

笑顔のきみは はじめから存在しないかのように

空虚のうねりに呑みまれていく

 

守りたい価値の潰える世界の果てに

きみはあたたかすぎるもの

こころを殺して立ち向かうことが 最善とおもっていたけど

ただ 自分を守っていただけ

知っても きみは忘れ去られたまま

わたしの中で眠っている

 

いま

取り出した手のひらにとどまって

こうしてほほえんでくれるなら

いましばし

いましばし

そっといてほしい

 

(2015.11.9)

『声・まっくら森』に収録

詩:なにがなんだかわからない

突然ぽっかり開いた穴に放り込まれる

なにがなんだかわからない

自分がどういう位置に陣取っていて

相手にどういう作用をもたらしたのか

 

困窮と違和のもみくちゃに

今にも押し潰されそうなのに

どうして一方的にあなたがたが迫ってくるのか

どうして双方向ではないのか

 

確かに 私が意思表示したんだっけか

確かに 私が進んでかかわったんだっけか

それにしても なにがなんだかわからない

人の隙間に張り巡らされた状況というやつは……

 

向こうは向こうの都合で押し込んでくる

こちらは現在地も見えずに戸惑うばかり

結局 ぜんぜんかみあっていない

結局 なんのためにそうしたのかわからない

 

そのわからないことが また伝わっていない

伝わっていないまま 表面上は和やかに

微笑ましい人助けの会議は進行する

前向きなコミュニケーションが回転する

 

かかわった私が悪いとなだめすかしても

まただ、またこの落とし穴だと

四方八方にそそり立つ壁に圧倒され

泣けない心臓がキリキリ掴まれる

 

なにがなんだかわからないことが

なにがなんだかわからない私が見えないあなた方に

なにがなんだかわかるはずがない

かくして 私はいつものように退散する

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:自己嫌悪

おぞましい

自分の姿を見よ

そして

愛せるようになれ

 

無理だ

落胆しているよ、ほとほと嫌気が差してるよ

いのちの根っこまで

幻滅しきっているよ

 

そんなおぞましい自分を

「受容」なんてしなくていいから

幻滅するままに

知るんだ

 

ほとほとあきれ果てた自分が

幻滅の思いそのままに

しみじみあふれ出してくるまで

あふれ出させよ

 

ああ

こんな私なのだと

こんな私なのだなあと

しみじみ感動できるまで

 

我がおぞましい

自分の姿

悲しく微笑みながら

ようこそ

 

(2015.12.14)

『声・まっくら森』に収録

詩:誤解

「なんともない」よう取り繕った技巧の数々が

「目立たぬ」よう塗りたくった保護色の数々が

「人並みになる」よう蓄積した知識の数々が

「悪いところを直す」よう訓練した反射神経の数々が

「まともになる」よう刻苦精励した経験値の数々が

 

ふつうを演じた手練手管の展覧が

千手観音の手さばきに結んだ見目麗しい映像が

向上の頂に積み上げた配慮の羅列が

 

あなた方を惑わせる

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:瞑目に花開く安息

瞑目に花開く深い蒼闇

華やかな陽光を避ける陰の溜り

青緑の草触れる音囁く涼風

人知れず止まる足跡

 

ここへ・・・

 

不安と後悔と自責を置き

虚ろな思いを沈め埋める

壊れた悲しみを振るい

埋もれた記憶を汲み出だす

 

静寂に鳴る夜微笑に想溢れ満ちる安息

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:ほんとは君を恨んでいるんだ

怒りの炎に鎮魂を

微かな火の粉は消滅しても

握りつぶした業火は

掌から放たれ再び羽ばたく

 

君たちに注ぐ穏やかな眼差し

目の奥に眠る揺るがぬ記憶

気づけば内向いて打ち殺す

憎き自分に制裁を・・・

 

握りつぶした業火は

再び燃え盛り鞭を捕る

「ほんとは君を恨んでいるんだ」

ほんとは世界中の君を・・・

 

私を苦しめ安息を奪った君を

何も知らず我正しいと笑う君を

悲鳴を聴く耳無く踏みにじる君を

黒い記憶の干からびた主を

 

鞭の絡まった肢体の傷に

注ぐ血を君に浴びせる

混じり流れる涙はなんのため?

歪む空を眼を開き問う

 

それでも奇跡の邂逅は

生まれいづる新たな記憶

取り交わされる手と手

微笑みに映す無邪気な君の姿

 

消えたい

忘れたい

泣きたい

赦したい

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』収録

詩:barrier

barrierが邪魔をするんだ

僕の前に

自分を守るために囲い込んだ

皮膚と生理が蛹のように覆った

冷たく硬い殻

 

barrierが足りないんだ

僕のまわりに

溢れる音を拾い集め調節し

肉体と精神を脅かすものから

均衡を保つ把手

 

barrierが重いんだ

僕の心に

不安と恐怖と孤独感を植えつける

開いていれば安全なのに

憂鬱には必要の門

 

扉を開けて一人逃げ出した

暗い部屋の奥へ

ざわめきは次第に巨大な渦となって

barrierを破りbarrierを強靭にした

barrierのためにbarrierが生まれる・・・

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:世界

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

閉ざされた2つの扉

帰ろうときびすを返す

でももうそこには何もない

見捨てられた赤子のように

まっさかさまに落ちていく

"はざまの世界"へ・・・

 

ありのままにあるうねり

ぼやけた輪郭に夢をみた

こころはあなたのイデアを宿し

虚空に鮮やかに映し出した

手を結んでもう二度と離れない

けれども私は知らなかった

あなたがいると思っていたのに

 

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

うねりにのまれて生まれるこころ

それはあなたのうつし鏡

こころが創ったあなたの似姿

こころが宿したあなたの原型

私のすべてを支配した

うねりにのまれて生まれたこころ

 

巨大なうねりが追いついて

身体を包み込んだけど

私に触れることはできない

置き去りにされた記憶が

忘れられた望みが見失った夢が

形のない黄色い未曾有の混沌に

未分化の原核に分裂した

閉ざされた2つの扉

喪った感覚に流れるこころ

うねりにのまれて生まれたこころ

 

(2015.12.19)

詩:limit

溢れる刺激が手のひらを超え

容器の目盛を突き破る

一つ、二つ、三つ・・・

縦横無尽の熱気揺らぐ昼刻

 

満ち零れた信号

乱れる均衡に陰る鮮やかさ

手招きする惑乱に目を汚す

ひとつところに癒着する意識

固定する視線が高見の旗を狂わせる

混沌の渦に崩れた片膝を覆う

入り組んだ感情の交錯

無尽に奏でる危機の鐘

 

溢れる刺激が手のひらを超え

容器の目盛を突き破る

四つ、五つ、六つ・・・

縦横無尽の熱気揺らぐ昼刻

耳の下をひたひたと

無尽に奏でる危機の鐘

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:実在発現病的顕在

お前の上に落としてやる

忘れられないんだろう?

だったら爆弾にもなるさ

信じるからこそ見てるのさ

実在発現心夢想病的顕在

避け隠れるようになったね

どこまで逃げるつもり?

雷はいつ何時でも降り注ぐ

誰にも見えない存在の幻を

お前自ら輪郭を与えている

お前自ら存在を許している

塞がれた目では気づかない

ようやく気付いたようだね

それでも頭上に降り注ごう

今日も明日もまた明後日も

破壊者はお前と共にある

私を恐れながら携えている

その握った拳を見てごらん

 

(2015.12.20)