地底の声

世の中からズレてる人の書いたもの(詩・エッセイ・日記など)

詩:無言の言葉

なぜ今頃になって 叫ぶのか?

在りし日の わたしの無言よ

書を遠ざけ 文字を退けて

ただ己の闘いを 耐え忍ぶだけで

尊い一日は暮れていった――

表には 緘黙をもって心を遮断し

巨大な沈黙が 荒野を満たした

 

なぜ今頃になって 語るのか?

在りし日の わたしの無言よ

書を遠ざけ 文字を退けて

発声を断念せしめた

想念の宇宙の最果てから

頑固な言葉の放擲は

無言のうちに 何を祈念していたか?

 

無言 そういう言葉だった

無言 そういう表現だった

そのようにして

無言は 自明に語られた――

 

(2017.5.16)

『声・まっくら森』に収録

詩:推敲推敲また推敲

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

一体いつになったらば

言葉はピタリ嵌まるでしょう

 

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

何回チェック重ねても

まちがい見出しまた一つ

 

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

足し算引き算こねくって

生き物みたく動きます

 

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

あるべき言葉の揺りかごが

どうやらどこかにあるらしく

 

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

これで最後と思うても

なぜだかやはり変えたくて

 

推敲推敲また推敲

推敲ばかりしております

いい加減にて終わりたい

才能なき身ゆえならず

 

(2017.6.5)

『声・まっくら森』に収録

詩:十方塞がりを描いた結末

四方八方ならぬ十方塞がりの

ドウにもコウにも方途がつかぬ

行き詰まりのこの現状を

忠実に描き出したいと願ったが

掘りあてる言葉は当然ながら

希望のきらめく余地のない

圧迫した様相であったとさ

みんなみんな望みがほしい

その歌は市井に顧みられず

ここから出たいという光すら

こぼれ落ちなかったリアリズムを

なまのまま追求した歌い手は

とうとう人前で歌わなくなったとさ

 

(2016.11.28)

『声・まっくら森』に収録

詩:ずぶといひと

ずぶといひとよ

お前はとうとう勝利をおさめるのか

お前たちのなかには微笑ましい者もいて

ずいぶん憧れもした、手を伸ばそうともした

けれどもお前とはけんけんがくがく

どうにかこうにか接地点を探っていたものだが

その片手はとうとう勝ち誇ったように

一切を薙ぎ払ったように見えた

その手はいかにも権力を得た者のように

いらだちと栄光に満ちていた

ずぶといひとよ

お前はとうとう勝利をおさめるのか……

 

(2016.2.29)

『声・まっくら森』に収録

詩:イジワル

わたしはイジワルだった

どんなに尊敬されようとも

実はわたしはイジワルだった

確かにあなたはドンヨリ鈍い、昏い、疎い

それゆえにこれっぽっちも心打たず

それゆえにわずらわしくて

イジワルしちゃった

 

どんなに謝っても謝りきれない

額を地面にこすりつけ

罪の意識に埋もれるほどに

それでも申し開きはできない

確かにわたしのきたない心根は

ウゼーンダヨと大さわぎした

正義の顔で指差した

 

ああ ゆるしてください

あなたをわずらわしがったわたしを

あなたをどうしても好きになれなかったわたしを

それゆえにみにくく染まり

いいひとを装いながら

ほんとうはイジワルだった

きたないイジワル女を

 

(2016.2.17)

詩:これっぽっちのさいわい

ふと 命綱を切り離した

白く照らし出された地上に満ちる禍(わざわい)

無関係のまま皮膚に調和した

 

昔は幸せでも不幸せでもなかった

路傍の刹那は

ありのままでいられると 凱歌を放った

 

ふと 命綱を切り離した

白く照らし出された地上に満ちる禍は

しばしの浸透に寝入った

 

たったこれっぽっちのあたりまえよ!

たったこれっぽっちの

豊穣なるさいわいよ!

詩:罠

まったくえらい目に遭った

規則正しく折り目正しく

生活していたはずなのに

こんな罠があったとは

 

まったくえらい目に遭った

体調リズム気遣い万全

抜かりなかったはずなのに

藪から棒につかまった

 

まったくえらい目に遭った

しばし休憩してからさてと

波に乗ろうと身を委ね

あれよあれよと舵取られ

 

まったくえらい目に遭った

壊れた欠片まじまじ眺め

無意識埋まるシナリオに

こんな奈落があったとは

 

まったくえらい目に遭った

一度狂った歯車のネジ

そうそうもとに戻りゃせん

ヤレヤレまずは早寝せよ

 

(2016.1.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:記憶の鎖

心の深手を背負ったまま

言葉を操り書くことも

歌うことも踊ることも

涙を流し悲しむことも禁じられ

空想の檻に閉じ込められて

記憶の中で自傷する君

人間らしさを奪われて

気が遠くなるほど長い年月

頭でさまよった反復の日々

どうかほんの少しずつでも

話してほしい泣いてほしい

表現を怖れず開いてほしい

冷凍した記憶を温かくほどき

溶かして再び生きてほしい

 

(2016.1.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:知らせ

縁なき後も消しあぐねていたアドレスを

思い切って棄てた直後に知らせは来た

葬儀場に駆けつけたとき

あなたは花に囲まれて

人々の涙のなかに咲いていた

長い年月見なかったその顔は

確かにあなたで

女神のように美しく

重い安らぎに胸を衝かれた

 

愛する人に忙しく

あなたはわたしを忘れてしまったかもしれないが……

わたしはいつまでも覚えていて

どうして逝く前に一言声をかけてくれなかったのかと

涙にくれた

 

困難に打ちひしがれるわたしに

あなたは知恵を与えてくれた

それが最後とはつゆも知らずに

 

人々に素晴らしく愛され

人々に素晴らしく惜しまれた

あれほど高い魂を持ったあなたが死ぬなんてありえない

けれども

あれほど高い魂を持ったあなただからこそ

ときが来ていたのだと

今ではわかる

 

あなたはわたしを忘れてしまっただろうが……

もう一度 教え示してください

わたしはいつになっても

あなたに顔向けならないままでしたが。

 

(2016.1.1)

『声・まっくら森』に収録

詩:声

わたしの中にある ふんわりしたやさしいこころを取り出して

まじまじと眺めてみる

やさしい、あたたかい、いとしい、やわらかい……

握り潰してそ知らぬ顔で棄てていた きみは

一体どこに どうしていたの

忘れてしまったやさしいきみは わたしに笑みを投げかける

 

ときどきは

こころを失ってしまうこともある

背を向け、拒絶して、急ぎ足で

死んだ瞳をのっそり投げ出して

笑顔のきみは はじめから存在しないかのように

空虚のうねりに呑みまれていく

 

守りたい価値の潰える世界の果てに

きみはあたたかすぎるもの

こころを殺して立ち向かうことが 最善とおもっていたけど

ただ 自分を守っていただけ

知っても きみは忘れ去られたまま

わたしの中で眠っている

 

いま

取り出した手のひらにとどまって

こうしてほほえんでくれるなら

いましばし

いましばし

そっといてほしい

 

(2015.11.9)

『声・まっくら森』に収録

詩:なにがなんだかわからない

突然ぽっかり開いた穴に放り込まれる

なにがなんだかわからない

自分がどういう位置に陣取っていて

相手にどういう作用をもたらしたのか

 

困窮と違和のもみくちゃに

今にも押し潰されそうなのに

どうして一方的にあなたがたが迫ってくるのか

どうして双方向ではないのか

 

確かに 私が意思表示したんだっけか

確かに 私が進んでかかわったんだっけか

それにしても なにがなんだかわからない

人の隙間に張り巡らされた状況というやつは……

 

向こうは向こうの都合で押し込んでくる

こちらは現在地も見えずに戸惑うばかり

結局 ぜんぜんかみあっていない

結局 なんのためにそうしたのかわからない

 

そのわからないことが また伝わっていない

伝わっていないまま 表面上は和やかに

微笑ましい人助けの会議は進行する

前向きなコミュニケーションが回転する

 

かかわった私が悪いとなだめすかしても

まただ、またこの落とし穴だと

四方八方にそそり立つ壁に圧倒され

泣けない心臓がキリキリ掴まれる

 

なにがなんだかわからないことが

なにがなんだかわからない私が見えないあなた方に

なにがなんだかわかるはずがない

かくして 私はいつものように退散する

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:自己嫌悪

おぞましい

自分の姿を見よ

そして

愛せるようになれ

 

無理だ

落胆しているよ、ほとほと嫌気が差してるよ

いのちの根っこまで

幻滅しきっているよ

 

そんなおぞましい自分を

「受容」なんてしなくていいから

幻滅するままに

知るんだ

 

ほとほとあきれ果てた自分が

幻滅の思いそのままに

しみじみあふれ出してくるまで

あふれ出させよ

 

ああ

こんな私なのだと

こんな私なのだなあと

しみじみ感動できるまで

 

我がおぞましい

自分の姿

悲しく微笑みながら

ようこそ

 

(2015.12.14)

『声・まっくら森』に収録

詩:誤解

「なんともない」よう取り繕った技巧の数々が

「目立たぬ」よう塗りたくった保護色の数々が

「人並みになる」よう蓄積した知識の数々が

「悪いところを直す」よう訓練した反射神経の数々が

「まともになる」よう刻苦精励した経験値の数々が

 

ふつうを演じた手練手管の展覧が

千手観音の手さばきに結んだ見目麗しい映像が

向上の頂に積み上げた配慮の羅列が

 

あなた方を惑わせる

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録

詩:瞑目に花開く安息

瞑目に花開く深い蒼闇

華やかな陽光を避ける陰の溜り

青緑の草触れる音囁く涼風

人知れず止まる足跡

 

ここへ・・・

 

不安と後悔と自責を置き

虚ろな思いを沈め埋める

壊れた悲しみを振るい

埋もれた記憶を汲み出だす

 

静寂に鳴る夜微笑に想溢れ満ちる安息

 

(2015.12.20)

『声・まっくら森』に収録