詩
わたくしは争いに明け暮れました 十字架の重みにひしがれて 遂にひらたい原生動物となり 地べたを這いずっております 見下ろすことのない一つの目は 固定された視界で 局限された風景を 眺めるしかございません 灯台よ あなたはその明晰な眼光で 空からわた…
こんな ひとりごとをかいてるひまがあったら きみに つたえることばを さがさなければならないのに みつからない からばこにてをつっこんだまま みつからないみつからない と てがみのうらに かいている (2018.1.29) * 【ひとこと】 どうしてもこう、こじ…
出馬遅れて詩学の徒 学び舎なき身独善の 伊呂波も知らぬ野暮楽士 我流きわまる作詩法 奇計無策の赤っ恥 根源なるは苦悩なり 読者方には恐れ入る 癒しも喰わぬ排泄歌 (2018.9.19) * 【ひとこと】 七、五と韻を踏んでいます。
一人の客が主人の店を訪れた 往来に面したショーウインドウには 色とりどりの商品が着飾って 見目麗しい愛想を振りまく 客人は百花の陳列に目を奪われ 弾んだ歓声を上げて ウインドウの端から端を行ったり来たり ここにあるのは主人の生き写しと 無邪気に微…
これだけ これがすべて これしかない これでなければ これいがいは ありえない うつわ をほうって かわりの うつわ をさがしながら これしかない うつわ もやっぱり かかえて かわりの うつわ をもとめる (2018.4.20) -----------------------------------…
魅せられるままの導きは 転がる種に絨毯を敷いて 大地に錨を降ろした 地面に空に 繁茂する 無数の根 のびる枝 ふえる葉 蔦はからまり 苔まで生えた あの木になることも その木になることも できたのに 木はこの地に姿を現し 種の転がる先を果てまで描いて 深…
かれがそむけた心臓を ときには頭上に掲げたく ときには握り潰したくもあり その拡声の臭気を前に きみもまた かぎつけられた愛憎の 煙を嗅いだ あわれなる きみがいびつの塊よ 両極揺れる街宣よ 自ら頼もしからぬ玉座よ この血をもはやかざすまい きみは心…
――イラッシャイマセ ――話がしたいのですが ――何ヲ話シマショウカ? 君ノ好キナヨウニ話シテクダサイ ――何を話してもいいですか? ――何ヲ話シテモイイデス ――じつは○○は××で、△△しました ――○○ハ××デ、△△シタノデスカ ――それはどういう意味ですか? ――○○ハ××デ…
愛する人が死んだときは死なねばならぬと むかし愛した詩人がいった もし きみがぼくを置いて どうしてもぼくのなかから消えるというなら ぼくはぼくをくびるかわりに きみをこの手に生み出しましょう どこにもいないきみのうたを ぼくのうちに咲かせましょ…
世界の片隅から呼びかける 虚しい願いはこだまする 届いても届かなくても 声をかぎりに歌っていた 消え入る祈りに絶望と 透明な涙が混じる 決して返ってくることのない声 決して報われることのない声 人に祈ると黙られる その法則をいつ知った? 神様ではな…
巌(いわお)が影に沈む 闇黒(あんこく)の洞窟を行く 湿った石灰岩に沿って 奥、奥、そのまた奥深くーー 道の尽きた壁に 肉厚に隆起した 透明の膜を着膨れて しじまに鎮座する 異形の塊 ――それがわたし 君よ カンテラに灯をともし その手に掲げ持て そうし…
ここは小さい穴ぐら わたしの家 誰も立ち寄らないと ついしょぼくれて つい寂しく ついふてくされもして それなのにきょう あなたは ていねいな物腰で穴ぐらに進みきて 暖炉の前に手をかざしたりなどして 椅子に腰かけてくれる その止まった背中に ほんのり…
薄暗い穴ぐらの奥まった 最も深い底の底 そこにわたしは置いてきた 窮迫したこわもての告訴状 かれらと千切(ちぎ)れた たったひとつの千言を どうしてもかれらに届けなければならない いちばん尊い言伝(ことづて)を だがかれらの歩幅は大きく その歩調は早す…
行かなくてはならない わたしの足どりは重い 過去の亡霊が立ち上がってくる その亀裂が生じる瞬間が まるい調和のなかから ぎらと顔を突き出すのが 見えてしまうから 晴れた空が突然かげり 雨降る間もなく稲妻が落ちてくる その急迫が光るのを 鮮烈に感触す…
あまりにもまるい達成が続くので もしやあなたを押し切ったまま ひとり得意の終止符を発行して すましているのではないかと 疑念がさわいでおります あなたが少しばかり口をひらこうとも さらにもの言いたげな峻烈の物語が 角張らない笑顔の後ろに 匿われて…
びりびりに引き裂いて散らばった嘆きを ゴミ箱に屠る手をためらい 胸に抱えてもう一度抱きしめる 紙屑の端にはちぎれた無数の文字が 名残惜しげに繊維のうえにうごめいた ――いやだめだ お前は 間引きされる定めの子 日陰を歩む斜陽の嘆き 見たろう かれの素…
長く重苦しい冬の年月は 透明な患いを吹雪にのせ ぽとりと吐息をこぼしました 冬は誰かに対して何かの意図をもって 嘆息したのではないのです ひとりでの出生でございました 歓待のまろやかな呼び声 拍手に千切(ちぎ)れる艶やかなリボンに 化かされてはな…
手足なく 口のきけないだるまは 地べたをころがりながら からだで詩を吐く だるまの無言は とうといんだ (2017.7.17) * 【ひとこと】 「地べたを這いずりながら」のほうがいいかなぁ? 「地べたをころがりながら」のほうが自然かなぁ? と迷いながら、今…
アンタが悪い んじゃない こんがらがった糸が 悪いんだ (2017.6.29)
蟻は山の巨大を知った 蟻は体の小粒を知った 歌を歌えば歌うほど 歌は足りない 言葉を手繰れば手繰るほど 言葉は足りない 捻りなく ただありのままをかたどるだけが 蟻の仕事だった ときには己の住処さえ うっかり零してしまうこともあった 勢いばかりの野暮…
こよい手製の 子ができる めんどくさい 階段ひとまたぎの てっぺんを ぐわっと たぐり寄せたい (2017.6.27)
へたでも しろうとでも これをかかないでは いきていられなかった すごみのあるほんが みたいのです そういうほんは おくにおいやられて うまい りっぱなほんが おもてにのこっているのでは ないのですか せんそうをかたりつぐのは もちろんとてもだいじです…
地を伝えば石礫 宿を守れば震源地 額に刻まれた カインのしるしのために わざわいは招き寄せられ わざわいから守られる このしるしあればこそ
おそらく君が君であろうとして 踏みしだいた足下は 僕が僕であろうとして 築いた牙城の本丸だった もう幾度も 国境を定めてきたが 制止の声を聞いてか聞かずか 君は遂に 踏み越える禁忌を なおざりにし通した 旗を折られた本丸の大将は 怒り狂って出陣した …
なぜ今頃になって 叫ぶのか? 在りし日の わたしの無言よ 書を遠ざけ 文字を退けて ただ己の闘いを 耐え忍ぶだけで 尊い一日は暮れていった―― 表には 緘黙をもって心を遮断し 巨大な沈黙が 荒野を満たした なぜ今頃になって 語るのか? 在りし日の わたしの…
推敲推敲また推敲 推敲ばかりしております 一体いつになったらば 言葉はピタリ嵌まるでしょう 推敲推敲また推敲 推敲ばかりしております 何回チェック重ねても まちがい見出しまた一つ 推敲推敲また推敲 推敲ばかりしております 足し算引き算こねくって 生き…
人差し指を立てる口 秘密の言葉そのままに あなたに宛てる無言の詩 気づくや否や鎧もて 覆える胸に隠れたり (2017.2.2)
四方八方ならぬ十方塞がりの ドウにもコウにも方途がつかぬ 行き詰まりのこの現状を 忠実に描き出したいと願ったが 掘りあてる言葉は当然ながら 希望のきらめく余地のない 圧迫した様相であったとさ みんなみんな望みがほしい その歌は市井に顧みられず ここ…
ずぶといひとよ お前はとうとう勝利をおさめるのか お前たちのなかには微笑ましい者もいて ずいぶん憧れもした、手を伸ばそうともした けれどもお前とはけんけんがくがく どうにかこうにか接地点を探っていたものだが その片手はとうとう勝ち誇ったように 一…
わたしはイジワルだった どんなに尊敬されようとも 実はわたしはイジワルだった 確かにあなたはドンヨリ鈍い、昏い、疎い それゆえにこれっぽっちも心打たず それゆえにわずらわしくて イジワルしちゃった どんなに謝っても謝りきれない 額を地面にこすりつ…